
全国水利用設備環境衛生協会 会長 大熊久之氏
観光産業のモラル・マナーの必要性
観光業界での財務資源は、第1番目に(1)風土(2)自然環境(3)伝統文化(4)歴史・遺産、第2番目に(1)食(2)癒やし(温泉、おもてなしなど)(3)体験(茶道、華道、着付け、買い物など)でしたが、近年では第3番目に(1)治安(2)安心・安全(3)清潔・衛生などが含まれてきています。地域性や受け入れ側の特性においては、この順位や呼び方の違いはありますが、インバウンドや国内利用者が求める観光旅行は、この資源の組み合わせでさまざまな楽しみ方と共に再訪問の機会が増えてきています。
日本は、経済の低迷と共にその産業基盤が徐々に変化しています。2023年で戦後78年となりますが、この間にも第1次産業(農林水産業など)から第2次産業(製造、建設、工業生産など)の過程をたどり、現在、経済シフトが第3次産業(金融、運送、情報通信、小売、サービス業など)に移り、中でも顕著にサービス業への取り組みを「観光立国」と銘打って国が推奨し、新しい経済基盤を造ろうとしています。
観光産業での経済基盤のあり方は、世界的にも人種、文化、気候風土、宗教など、また、国力、経済力などによる違いがありますが、気候変動や産業の発展などによる自然環境の異変や国情による人口の増減や移民政策、格差社会の拡大などによる多様性を中心とした新しい観光産業が生まれようとしています。
これから第3次産業のサービス業は、第1、第2次産業のけん引役になっていきます。中でも財務資源の第3番目の(1)治安(2)安心・安全(3)清潔・衛生などは危機管理の対象となりますが、これが大きな付加価値となり、国の品格、民度の評価と並び、国の基礎評価となり得ます。
これらを維持・保守するには、訪日外国人や国内旅行者を問わず観光の目的に応じたモラル・マナーの重要性を啓蒙し、受け入れる側もコンプライアンス教育の徹底を図ることが、これから大きな問題になるであろうオーバーツーリズム(観光公害)を少しでも軽減させる要因となります。
モラル・マナーは、観光事業者、地場産業、周辺住民などが地域社会の文化、風土などにあった強弱のある規制(罰則を含めたローカルルール)を策定し、国が自治体、ならびに観光業界と共に啓蒙することで、より現況に即した安心・安全な安定的観光経済圏を創れるのではないでしょうか。
「観光立国」の構想は、日本の魅力の宣伝と新しい経済活動の基盤となりますが、それらの理念の基礎に「観光倫理」があり、「持続可能な観光」が望めるのではないでしょうか。
全国水利用設備環境衛生協会 会長 大熊久之氏