
京都大学大学院経営管理研究部情報学ビジネス実践講座 特定教授 前川佳一氏
経営戦略とは「ちゃんと考える」こと
このタイトルを見てこう思われるかもしれません。「大学の先生なんて頭でっかち、『FAXなんてやめろ』と言うんでしょ」と。私の答えはYESでもありNOでもあります。つまりFAXが必要な現場もある、ただしそれには正当な理由がいるのです。たとえば既存顧客がいまだに求めている、あるいは、新規市場開拓がFAXでも可能である道筋が描かれているなど。極めて限定的ながらFAX継続使用を妥当とするシナリオはあってもおかしくありません。
ここで経営戦略の定義を「ちゃんと考えること」とします。「バカにするな」と思われそうですが、私は結構真剣です。もう少し具体的に、将棋の「3手の読み」に例えましょう。こっちがこう指す、相手はこう反応する、そこで3手目で勝負!です。プロ読みもこの積み重ねです。
経営に戦略性がない最たる状態とは、最初の1手すら読んでいないこと。「昔からやっている」とか「これで特に問題がない」など。この1手目を指そうとするモチベーションがなければ何も始まりません。現場の雑事に追われて熟考する余裕がないと公言する経営者も同罪です。
一歩進んで1手だけ思いついたとしてもそれはこっちの都合だけで、相手(市場)がどう反応するかを読まない、読めない、読もうとしない。3手の読みなら、1手目に対して市場や環境がどう変わるのかを考える必要があります。それにはいくつかの分岐(パターン)があるかもしれないので、それぞれについて考えをめぐらします。そして3手目は、選択し得る分岐のどれにもそつなく対応でき、利益になること。私の言う「ちゃんと」はたったこれだけのことです。
経営戦略論を学ぶと難しい言葉がたくさん出てきますが、元はといえば現場の経営者たちが3手の読みを駆使して築き上げたものを学者が体系化しただけ。なので経営学の扉をノックしていただければ、2手目以降を読むヒントが得られるでしょう。たとえば単純に、生産性向上の分母と分子を考えてみること。分母はコストの削減ですが、今の現場に必須ならすすめましょう。分子は価値向上で、創意工夫が求められるでしょう。分母・分子両方へのアプローチが必要かもしれません。
既にお分かりかと思いますが、観光事業者だけではなくあらゆる経営者は「ちゃんと考えて」ご自分の経営戦略を構想し、必要なら経営学の助けを借りて、その暁には胸を張って「ウチにはFAXが必要だ」あるいは「FAXとは決別する」と言い切っていただきたいのです。