【食と観光 日本の新たな魅力60】日本にもある手食文化 山上徹


 今年4月現在、世界人口は約74億人。地域分布では約4割が手食で、約3割が箸食、残り3割がナイフ・フォークだ。

 手食は一般に未開、野蛮、不衛生などのイメージで捉えがちだ。しかし、手食の人々からすれば食器、食具は宗教上、汚れたモノであり、良く洗った人間の手の方がはるかに清潔との考え方に基づく。

 中東などのイスラム教徒は手食文化圏に属し、右手は聖なる清浄な手だ。手食は聖なる右手の親指、人差し指、中指の3本の指で食べ物を巧みに挟み、口の中へと放り込む。

 手食は口に入れる前に指先の触覚で、食べ物の手ざわりや温かさの感触が楽しめる。同じく、日本人もおにぎり、饅頭やサンドイッチを手にて頬張るとおいしさ倍加。

 また、寿司職人が手で寿司を握り、食べる客も手でつまむ方が粋でおいしさを実感する。手食は食具を使うよりも、優れた面が多々ある。
 イスラム教徒らは家族や仲間とともに円座になって、あぐらをかくか、片膝を立てて座り、アラーの神への感謝の祈りを唱え、手食で共食し合う。この共食が家族・仲間の連帯意識を高めるのだ。

 近年、日本人の食生活は孤食、個食などのため、家族の絆が希薄だ。かつて金八先生のドラマで、食の字は「人と人の関係を良くする」という名言を言った。陽気の時節、ピクニック気分で出掛け、皆で花見弁当を手食にて共食し合えば、家族関係が良くなること間違いなしだ。

 (梅花女子大学教授)

 
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