【道標 経営のヒント 312】食事提供のSDGsを考える 佐々山 茂


 最近、旅館の食事関連のデータを収集しています。9月のハイブリッド厨房の実証実験を手始めに、11月25日に箱根の大型旅館で食器洗浄の実証実験を行い、引き続いて12月8日に埼玉のクッキングラボでドイツ製の排熱回収型食器洗浄機の計測を行いました。

 実証実験には計測機の設置、食材購入、調理、ビデオ撮影、記録係と担当者を決め、予算立てなど事前準備が重要で、終わってからはデータ整理、ビデオ編集、報告書の作成などかなりの労力が掛かりましたが、貴重なデータが得られました。

 旅館の食事部門には唯一製造工程が含まれます。団体旅行のピーク時には大広間に何百人ものお客さまに同時に食事を提供するシステムを作り上げました。1990年代をピークに団体が減り、個人客に変化してきましたが、設備や動線は当時のままのところが多く、無理があり無駄が出ます。

 食器の1日の動きに注目すると問題点がよく分かります。食器は番重と呼ばれるプラスチックの箱に入れられて運ばれます。番重の数はおそらく客室数の10倍前後はあると思います。厨房で盛り付けられ、番重に入った料理が各食事処に運搬され、食べ終わった器がまた番重に乗せられて食器洗浄コーナーに戻って循環します。施設によって差がありますが、その水平距離は往復で100メートルにも200メートルにもなり、エレベーターでの垂直移動を含め、毎日の移動に掛かる時間と労力は生産性を阻害しています。

 また先日の食器洗浄の実証実験で洗浄作業5時間のうち洗浄機の実稼働は2時間弱で、そのうち1.5時間は何百枚もの番重洗いに費やされていました。

 コロナ対策でビュッフェでは1人ずつ小鉢に盛り付けられて、その小鉢が食器洗浄機では奇麗に洗えないので、ほぼ手洗いされて、洗浄機は仕上げだけに使われていました。ドイツ製の排熱回収型食器洗浄機の性能は良いのですが、ドイツの衛生基準で2分間洗浄ゾーンを通過するためにコンベアスピードが毎分1.2メートルとゆっくりで、何百枚もの番重を洗うには向いていません。下膳されてから食器洗浄コーナーにおりてくるまでの残飯落とし、選別、運搬に掛かる時間がネックになっているので、調理から食器洗浄までの工程全体を見通してカイゼンしなければ問題は解決しません。

 食器が厨房を出てから戻るまでの間の作業時間のロス、エネルギーロス、食材ロスをSDGsの観点から解決するためにデータを収集し、そのデータを示すことで改善を提言しようと思います。

 
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