【道標 経営のヒント 151】考えるスタッフの存在 宮坂 登


 大雨被害に見舞われた西日本の惨状、命を落とされた方々のニュースを見るにつけ、自然の恐ろしさに声をなくす。心から哀悼の意を表したい。さらに炎天下が日本を焼きつくしている。熱中症で命を落とされた方々に対する哀悼の気持ちも変わらない。

 さて、以前、リニューアルオープンをお手伝いした宿に久しぶりに出向いた。当初と宿の印象は同じだが、働いているスタッフが一新され、おもてなしも大きく変わっていた。

 一番の相違点は、経営層とスタッフの日常のコミュニケーションが綿密になったことだ。あちこちで会話をしている。おもてなしの充実に向けて一人一人が「考える」ようになった印象だ。以前は女将の大号令に沿って言われた通りにおもてなしすれば良かった。だから自分で考えようとしない、自分で工夫しようと考えないおもてなしのスタイルが残っていた。ところが現在は、めいめいのスタッフが細かなところ、目の付かないところで、お客さまが居心地良く過ごされているかを考えるようになっていた。どうでも良さそうなこととしてしまえばそれまでだが、オープン時と比べれば大きな進歩である。

 例えば、客室でのひとこま。リビングルームの屋外にウッドデッキが用意された部屋に従来は室内履き用スリッパが1足用意されているだけだったのが、室内履き用とデッキ用とが用意されていた。若いお客さまはデッキと室内を裸足で行き来することが多いが、ご高齢のお客さまはそれを良しとしない。そのことに気付いたスタッフの提言だという。また、部屋出しの食事の場面。カップルで利用する場合はテーブルに向かい合わせに座るのではなく、並んで食べながら表の景色を眺められるようにテーブルセッティングを変えている。特に欧米からのお客さまはそのようなスタイルを好むことに気が付いたからだという。当然、室内の照明の位置を向かい合わせと並びの場合どちらにも対応できるよう、施設管理担当者を交えて検討したそうだ。その食事も厨房から運ぶだけでなく、室内に料理長が使えるキッチンを用意して料理の総仕上げをしてから提供できる客室を加えるなどお客さま本位の施設も誕生している。ますますファンを増やしていくに違いない、そんな印象を持った。

 こうした改善への努力は、広告表現を担当する立場としてうれしい。おもてなしの質を知らしめる上で何よりの材料になる。当たり前のことを誇張して伝えるのではなく、さりげない心遣いを具体例として伝えることができるからだ。お手伝いしがいがある。

 
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