女性や大卒者の活用視野に
不足するバス運転手
近年、バス運転手不足が深刻化している。昨年7月に日本初のバス運転手求人サイト「バスドライバーnavi(どらなび)」を立ち上げ、運転手不足解消に取り組む採用支援業、リッツMC(東京都港区)の中嶋美恵社長に、求人求職状況の現状と方向性を聞いた。
──バス運転手の不足が問題になっている理由は。
「最も大きな問題は高齢化だ。運転手は大型二種免許が必要だが、免許所持者の76%は50代以上になる。20、30代合わせても8%しかない。免許を持っていて運転手をできる人が少なくなっている。さらに、免許を持っている人の1割強が北海道にいる。しかし、北海道でそれだけ仕事があるかというと、そんなにはない。地域の偏りがある」
「女性も少ない。ヨーロッパでは50%が女性。おばちゃんが大きなハンドルを回している風景をよく見る。日本は1.4%しかいない」
──不足感の地域、会社間の差はあるか。
「全国的に、慢性的に不足している。困っていない会社はないと言える。ただ、都会には都会の、地方には地方の厳しさが、大手には大手の、中小には中小の悩みがある」
「大手の場合は求職者が集まりやすいが、世間の視線が厳しいので採用基準も上がり、(採用されても)乗客の評価も厳しくなる(ことですぐに退職する人もいる)。中小は知名度がないため、応募自体がない。都会は応募数が多いが、長続きしない人が多い。地方はバス会社が兼業の人を求める傾向があり、条件に見合う人がいない」
──これまではどのようにして人を集めていたのか。
「バス運転手はもともと、男子憧れの職業だったため、会社側は採用に苦労しなかった。電鉄系なら電車やバスでの車内広告で、ある程度の人数が集まっていた。その後は各社ホームページ経由で何とかなっていた。しかし、この2、3年はそれでは追いつかなくなってきた」
──運転手不足に伴う観光業界への悪影響については。
「貸切バス運賃制度が改定されたことも、運転手不足に関係している。修学旅行や団体の訪日外国人など、大口の得意先を断る会社もある。『車体はあるが運転手がいない』という状況で、バス会社には機会損失が発生している」
──今後、どのような人を活用していくべきか。
「バス会社が免許を持たない人を一から養成すると、一人100万円以上の出費になる。一方で、二種免許を持っているが、バス運転手ではない人が何万人もいる。最初から戦力になるその層が最大のターゲットだ」
「女性の活用も必要。四大卒の人も取り込まなければならない。運転手=高卒者というイメージが強いが、少子化や高学歴化で高卒者自体が少なくなっている。大卒者の就職の選択肢に『バス運転手』を入れる必要がある」
「会社側も待遇などの情報をオープンにしていくことが重要だ。また、会社ごとではなく、バス業界全体で採用について啓蒙活動していけば、注目が集まりやすい」
──観光業界がサポートできることはあるか。
「観光にバスはなくてはならないもので、共にホスピタリティ産業だ。観光業界の人材開発分野は参考になると思う」
【なかしま・みえ】
近大法卒。1998年からリクルートで人材サービス事業、05年から楽天でバス事業などに携わる。11年、人材採用支援サービスのリッツMC設立。14年にバス業界向け事業に参入。45歳。神戸市出身。