【観光学へのナビゲーター 25】旅のユニバーサルデザインの促進・合理的配慮とは何か 日本国際観光学会会員・JTBトラベル&ホテルカレッジ講師 竹内敏彦

  • 2020年6月16日

竹内講師

 2016年4月「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(いわゆる障害者差別解消法)が施行された。障害者差別の解消を推進することで、すべての国民が分け隔てなく共生する社会を実現させるための法律である。そして、この法律の施行によって、障害を理由として正当な理由なく、サービスの提供を拒否したり、制限したり、条件をつけたりするような行為は、不当な差別的取り扱いとして禁止することが、事業者に求められる義務となった。併せてこの法律は、事業者に対して合理的配慮の提供の努力義務を科しており、その不提供により障害者の権利利益の侵害をもたらすことも差別的取り扱いとして禁止している。

 それでは、この合理的配慮とは何であろうか。合理的配慮とは、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮の略称であるが、例えば、国土交通省所管事業で鉄道事業関係であれば、列車に乗降する際の手伝い等が合理的配慮の提供の具体例として示されている。そして合理的配慮とは、本来の事業内容に関する範囲に限ったものであり、事業内容を本質的に変える必要はなく、無理のない範囲での調整と解釈されている。確かにバリアを除去するための建造物の改修工事などハードの改修による提供は事業者にとって過重な負担となってしまうことは否めない。しかしながら、努力義務という単語の響から、できる限りのことをするという、ソフトの提供までもが疎かになってはいないだろうか。当コラムでは、宿泊事業者の取り組みを中心に一定キーワードを読み解くことによって、さらに今後の観光産業全体の取り組みとなるよう合理的配慮の概念を提言したい。

1.「気づき(アイデア)」

 こうしたらいいだろう、ああしたら便利だ、という気づきとその実践である。京王プラザホテルの公式HPには、ユニバーサル対応としてその様々な取り組みが列挙されている。例えば、新宿駅からホテルまでの車いすによる移動の画像、客室において視覚に障害のあるお客様対応として置かれているシャンプー・コンディショナー・ボディソープのミニボトルにそれぞれ輪ゴムが2本・1本・0本と手で触ってそのボトルを確認することができる工夫、車いすが近づきやすいミニバー(高さ107㎝、足元43㎝の空間)などである。高い位置に設置されたミニバーは、健常者にとっても腰を屈めることもなく便利な高さとなったといえる。

2.「デザイン(センス)」

 泊まってみたい、使ってみたいと思えるデザイン(センス)が必要である。例えば、箱根「ホテルはつはな」の車いすは、木の温もりが伝わり客室と調和して何ら違和感がないデザインで設計されている。また、松江しんじ湖温泉の「なにわ一水」は、2016年バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰において内閣府特命担当大臣表彰を受賞した。そのバリアフリー客室は、障がいのある人のための特別な仕様ではなく、むしろ泊まってみたいと思えるおしゃれ感がある。障壁を取り除くバリアフリーではなく、すべての人にとってセンスがいいと感じられるユニバーサルデザイン仕様となっているのである。

3.「事業としてのモチベーション」

 バリアフリールームを設けたことで売り上げが向上したという宿泊施設が存在する。その理由は、障害のあるお客様は介助者を含め1人では来られないので宿泊客数が増加する、オフに利用され、旅行が大きなイベントとして捉えられているため、一人当たりの単価が高く、早期の予約につながり、さらに体調を管理するためキャンセルが少ない、などの要因によることと分析されている。旅のユニバーサルデザインを促進することによって、さらなるお客様を、お迎えし収入を向上させている宿泊施設が現に存在するのである。

 さらに観光地もその経済的効果を認識している。三重県は2013年、障害者差別解消法が施行される前から日本一バリアフリー観光県推進宣言を行っている。合理的配慮とは、事業者に科せられた努力義務ではある。しかしながらそれはやらなくてもいい努力ではなく、やらされているという精神でも実らない。合理的配慮とは、事業者の気づき(アイデア)であり、デザイン(センス)であり、事業としてのモチベーションであるといえよう。そして各観光関連事業者の努力の積み重ね、つまり、旅のユニバーサルデザインの促進が共生社会を実現させるのである。


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