【竹内美樹の口福のおすそわけ 292】わさびご飯 宿泊料飲施設ジャーナリスト 竹内美樹


 最近、わが家で頻繁に登場していた料理がある。「わさびご飯」だ。料理と言うほどのものではない。炊きたての銀シャリをお茶碗によそい、かつお節をテンコ盛りにふりかけたら、てっぺんにおろしたての生わさびを載せて、上からお醤油(しょうゆ)をたら~り。ポイントがあるとすれば、わが家ではこのメニューの場合、土鍋でご飯を炊くこととヒガシマル醤油の「超特選丸大豆うすくち 吟旬芳醇(ほうじゅん)」を使うこと。かつお節はこだわり始めたらキリがなく、その時あるストックを使う。あとはわさびのおろし方だ。

 まずは、葉っぱにつながっていた茎を手で取り除き、ブラシで汚れを洗い流す。皮に辛味成分が含まれているので、むいてはいけない。茎を取り除いた太い方から、円を描くように優しくすりおろせば、わさびの細胞が壊れて辛味成分「アリルからし油」が生まれる。そっとするのは、キメ細かい方が辛味も粘度も出るから。これは揮発性なので、時間がたつと香りとともに薄れてしまうから、すりおろしたら急いで食すべし。

 わさびご飯を食べると、わさびには辛味だけでなく、甘味もあることが分かる。かつお節のうま味と相まって超美味。あぁ~、ニッポンに生まれて良かった!

 実はコレ、妹に教わって作ってみたのだが、情報源はテレビ東京の深夜ドラマ「孤高のグルメ」だった。主演の松重豊の食べっぷりがいかにもおいしそうだと人気を博し、現在新作シーズン8を放送中。シーズン3で、伊豆に出掛けた主人公が食したのがこの「わさび丼」だ。オンエア後は、ロケが行われた実在店舗に行列ができたそうだ。

 静岡県は、わさびの産出額で全国70%以上のシェアを誇る。飛鳥時代、すでに食されていたという日本の固有種わさび。栽培が始められたのは1600年ごろと言われる。山間地の湧き水や清流の流れる所で栽培される沢(水)わさびの生育に最適な水温は12~13度、気温は盛夏でも16度以下が望ましいとされ、澄んだ水でないと育たないので、日本でも限られた場所でしか栽培できないという。

 階段状に作られたわさび田の美しい景観や、極力肥料を使わず湧水に含まれる養分を利用する伝統的な農法が評価され、「静岡水わさびの伝統栽培」は、2017年日本農業遺産に、2018年世界農業遺産に認定された。外国人にもWasabiで通じる、日本が世界に誇る食材の一つだ。

 私ごとで恐縮だが、先日祖母が他界した。103歳だった。101歳まで自宅で一緒に暮らしていたが、もろもろの事情で伊豆修善寺の介護付き老人ホームに預けていた。祖母の顔を見に行くたびに、現地でわさびを調達していたのだが、もうその機会もないのだと思うと、寂しさがこみ上げてくる。

 亡くなる直前に買った最後の1本をすりおろして、わさびご飯を食べた。祖母を思うと同時に辛さがツンと来て、涙があふれた。筆者同様食べることが大好きだった祖母。きっと向こうの世界でも、おいしい物を食べているに違いない。

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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