
前号に続き、「グランドニッコー東京 台場」のワイン物語。「深川ワイナリー」の協力を得て、自分たちの手でホテルのプライベートワイン造りをすることになった彼らの最初の仕事は、葡萄(ぶどう)の収穫である。
…と、ここで問題勃発。葡萄の収穫のタイミングは天候次第だから、なかなか予測できない。そろそろ来てほしいと農園から連絡が来るのは、実行日の4日前ぐらい。全員がシフト制で働いているので、すでにスケジュールは決まっている。それを調整して都合を付け、2017年9月、有志メンバーで畑に赴いた。
ここでチョットおさらい。「ヴィンテージワイン」のヴィンテージとは、葡萄の収穫年のこと。つまり、今回のワインのヴィンテージは2017ということだ。
さて、収穫の次は「除梗(じょこう)」。房ごと葡萄を入れると、細い枝のような果梗(かこう)と実が分かれて出てくる、除梗機というモノがある。だが、ここの除梗機の動力は、電力でなく人力。手でグルグル回すのだ。意外と力が要るのだが、何と代表取締役社長総支配人の塚田忠保氏も参加。上着を脱いでワイシャツの袖をまくり、一緒に汗を流してくれたと、プロジェクトのリーダー似内利徳(にたないとしのり)氏は振り返る。そして圧搾、搾汁と続き、タンクに入れ発酵させる。観察は醸造家にお任せし、「ブクブクし始めたぞ!」と連絡が来るとかき混ぜに行き、ワインを育てた。
発酵が進み、いよいよシャルドネを3タイプのワインにするという計画の第1弾に突入! まずは、無ろ過でビア樽(だる)に詰め、ビールサーバーから提供する微発泡のタイプから。うっすら白濁した外観で、新酒らしいフレッシュでドライな味わいに。2018年1月「山形安孫子シャルドネ2017〈生(き)ワイン〉」を販売開始。
続く第2弾は、ステンレスタンク発酵タイプ。待ち受けていたのは、手作業の瓶詰めだった。瓶を洗浄する人、ボトリング機を操作する人、一本一本コルクを打ち込む人、キャップシールを付ける人と、工程ごとに並んでの流れ作業だった。慣れない作業で、体中が筋肉痛になったそうだ。
出荷前には、手作業でラベルも貼った。目印に合わせ、曲がらないように神経を使いながら、1枚ずつ貼っていく。ラベルデザインも社内スタッフが作成したもの。レストランフロアの30階から見えるレインボーブリッジや東京タワーがデザインされている。
こうして「山形安孫子シャルドネ2017」300本が出来上がり、2018年2月に販売開始。丁寧にろ過され透明な外観で、柑橘(かんきつ)系の香りと爽やかな酸味のある、スッキリした辛口だ。
3月に発売された第3弾は、材質の異なる2種の樽で熟成させブレンドした、「山形安孫子シャルドネ2017〈樽熟成〉」600本。樽の芳醇(ほうじゅん)な香りと共に、果実味を感じる豊かな味わいのワインに仕上がった。
計画通り、3種類をリリースできた。苦労の末、3人のわが子を世に送り出したようなものだ。ワイン造りの物語、次号に続く。
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。