【私の視点 観光羅針盤 324】Gゼロ時代の到来か? 石森秀三

  • 2022年3月7日

 2月24日にロシア軍がウクライナへの侵攻を開始し、戦火が各地に広がっている。ロシアによるウクライナ侵攻は他国の主権を侵害し、国際規範を大きく逸脱する暴挙である。国連安全保障理事会(15カ国)は翌日にロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議案を採決したが、常任理事国のロシアが拒否権を行使したためにあえなく否決された。11カ国が賛成、中国とインドとUAE(アラブ首長国連邦)が棄権という結果であった。

 国連は1945年に第2次大戦を防げなかった教訓に基づいて設立されたが、残念ながら国際平和と安全の維持に貢献できていない。そのため米欧主要国は連携してロシアに対する経済制裁の強化を図っており、国際決済ネットワーク「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からロシアを排除することを公表している。SWIFTは「金融上の核兵器」ともいわれており、ロシア経済に大きな打撃を与える最大級の経済制裁である。

 東西冷戦の終結に伴って、米国を中核とするG7(先進7カ国)の首脳によるサミットが国際的にリーダーシップを発揮することが期待された。ところが2008年の世界金融危機の深刻化に伴って、G7批判が高まり、G20(中国やインドを含む20の新興国)の首脳会合が創始された。

 その後、米国のオバマ大統領がシリア内戦への軍事不介入を発表した際に「もはや米国は世界の警察官ではない」と宣言し、その次に登場したトランプ大統領は「米国第一主義」を強く表明し、米中新冷戦を現実化させた。その上にコロナ禍の深刻化で先進国は内向き志向になり、世界は今「Gゼロ」時代を迎えつつある。

 「Gゼロ」は国際政治学者のI・ブレマーらが考案した概念で、世界は先進国が優位性を享受したG7体制から新興国の台頭によるG20体制へとシフトし、やがて国際政治における権力の空白や経済的にリーダーシップを発揮できる国が存在しない「Gゼロ」の状態に至るという説だ。ただしオバマ大統領による「世界の警察官ではない」宣言の背景にはシェール革命(地下のシェール層から石油や天然ガスの抽出を可能にした)が実現したことがあった。それまで米国は世界最大のエネルギー輸入国であったが、シェール革命後には世界最大のエネルギー資源国へと発展していることに留意すべきだ。

 世界では今「米中対立」が鮮明化しており、米国は日、英、豪などの同盟国と連携して、中国の覇権主義に対抗している。一方で中国はロシアとの連携を重視しており、ウクライナ侵攻への米国の対応を見極めながら、台湾侵攻を検討しているようだ。日本は今後、米国との同盟関係を重視しながらも、中国やロシアとの関係についても外交力の強化を図って相当程度に賢く巧く立ち回る必要がある。コロナ禍の長期化の中でウクライナ有事が現実化したために世界経済の減速・冷え込みが継続されるので、国際観光の回復は当面期待できない。観光関係者はそれぞれなりに将来を見据えて、可能な革新にチャレンジし、さまざまな「光」を育む努力が必要になる。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

     
 
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