【私の視点 観光羅針盤 308】ノーベル賞と日本の学術環境 石森秀三

  • 2021年10月25日

 毎年10月初旬にはノーベル賞各賞の受賞者が医学生理学賞から順次公表される。今年のノーベル物理学賞で真鍋淑郎・米国プリンストン大学上席研究員(90歳、愛媛県出身、米国籍)の受賞が公表された。

 真鍋氏は東大で気象学を学んだ後、1958年に渡米し、米国海洋大気局などで研究を行い、二酸化炭素の増加が地球温暖化に与える影響の予測モデルの精緻化を進めた。さらに気温や湿度などの大気の物理条件だけでなく、海水温や海流などの海洋の影響も含めた「大気・海洋結合モデル」を考案し、温暖化研究を格段に進展させた。

 その後もこの分野で世界を先導し、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の予測にも大きな影響を与えた。IPCCは2007年にA・ゴア元米国副大統領と共にノーベル平和賞を受賞しているので、今回の真鍋氏の受賞はむしろ遅かったという声もある。

 いずれにしても、日本人によるノーベル賞受賞は外国籍も含めて、真鍋氏で28人目になる。不思議なことにも韓国の場合にはノーベル賞受賞者は2000年の金大中大統領による平和賞受賞のみである。とはいえ、日本の場合にもノーベル経済学賞の受賞者は皆無である。

 インド人経済学者は、98年にアマルティア・セン教授(厚生経済学への貢献)、19年にアビジット・バナジー教授(世界の貧困を改善するための実験的アプローチへの貢献)でそれぞれノーベル経済学賞を受賞している。

 真鍋氏は若い間に渡米して、米国籍を取得し、現在も米国に居を構えている。受賞会見で「日本では他者と協調的・調和的関係を築く必要があるが、米国では自分のしたいように研究に打ち込める環境があり、それが日本に帰りたくない理由です」と述べられ、話題になった。

 藤嶋昭氏(79歳、東大名誉教授、東京理科大学前学長)は光触媒研究で世界的に評価が高く、ノーベル化学賞候補として名前があがっている。上海理工大学は光触媒に関する国際研究組織を立ち上げ、藤嶋氏の研究チームごと受け入れることを決めている。藤嶋氏はこれまでに日本で数多くの中国人研究者を受け入れて指導してきた。それらの弟子たちが恩師を中国に招こうとしており、そのために「頭脳流出」として話題になっている。

 日本では安倍・菅政権の下で、国立大学法人に対する運営費交付金が毎年減額し続けられており、その結果として自由な発想で使える予算が削られ、基礎研究が軽んじられるとともに、人減らしが行われ、若手の職場が奪われている。日本は自然資源に恵まれていないために、長らく教育・研究分野に予算を適正に配分して人財育成を行い、科学技術開発やその前提としての基礎研究の振興を図ってきた。その結果として、アジア諸国の中で群を抜いて数多くのノーベル賞受賞者を輩出してきた。

 日本の学術研究環境を調えることによって国際的な学術交流が盛んになり、日本への評価やイメージが高まる。その結果として「観光振興にもプラスになる」という視点が大切であろう。

(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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