【私の視点 観光羅針盤 176】波乱の年と日本観光 北海道大学観光学高等教育センター特別招聘教授 石森秀三

  • 2019年1月5日

 2018年に日本を訪れた外国人旅行者は12月中旬に3千万人を超えた。18年末までの1年間の合計が3100万人程度になると予測されている。菅義偉官房長官は記者会見で「20年インバウンド4千万人の目標が射程圏に入った」と述べ、誘致拡大に向けて関連予算を増やす意向を表明している。

 とはいえ、19年の世界の情勢は相当の波乱が予想されており、世界の観光がどの程度まで隆盛化するか、予断を許さない面がある。

 米国では18年11月に実施された中間選挙で、上院は共和党、下院は民主党がそれぞれ多数派となる「ねじれ」状態が生じており、内戦状態にあるかのような報道が相次いでいる。米国の内政が不安定な状態であるために、トランプ政権は国際社会でリーダーシップを発揮して世界の秩序形成に貢献するよりも、「米国ファースト」政策をより強力に推進することになる。その結果、米中対立が激化し、米中新冷戦と呼ばれる不安定な事態が現出しつつある。

 米中対立の結果として、中国は日本に対する対決姿勢を緩和しており、その点では日中関係は改善の方向にある。しかし、安倍政権がトランプ大統領の公約である「バイ・アメリカン」に呼応して、陸上配備型ミサイル迎撃システムを購入し、最新鋭ステルス戦闘機F35Bを多数購入の上で「いずも」型護衛艦の空母化を推進すると、日中関係や日韓関係に深刻な影響を与える可能性が大だ。

 さらに北朝鮮が再びミサイル発射を繰り返すことになると、東アジア情勢は一挙に緊張を高めることになる。

 日韓関係についても、文在寅(ムン・ジェイン)政権による日韓慰安婦合意の骨抜きの動きや戦時労働者訴訟に係る韓国大法院判決などで険悪さが増しており、日韓関係は厳寒期に向かっているという報道もみられる。

 日露関係についても、18年11月の日露首脳会談で平和条約締結後の歯舞、色丹両島の日本への引き渡しに期待感が高まっているが、日露交渉がスムーズに進展する保証はどこにもない。欧州においても、英国とドイツとフランスの3首脳がそろって窮地に立たされており、さらに欧州各国で排他的な極右政党が支持を集め、不穏な出来事が増えている。

 いずれにしても、訪日旅行者の約7割は東アジアから来訪しており、東アジア情勢の不安定化は直ちに観光交流の鈍化に直結する。観光産業はしばしば「フラジャイルな産業」とみなされがちである。フラジャイル(fragile)とは「もろい、虚弱な、壊れやすい」という意であるが、一方で観光は平和創出に貢献し、文化的安全保障としての役割を果たせる営為でもある。

 今後、観光業界はさまざまなイノベーションに力を入れることによって「タフ(tough)な産業」への体質改善を図り、波乱の世界情勢の中でより一層の成果を上げることが期待されている。

(北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
 
 
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