【私の視点 観光羅針盤88】持続可能な観光国際年 石森秀三


 今年は国連が総会で定めた「持続可能な観光国際年(International Year of Sustainable Tourism for Development)」である。国連が観光をテーマにして国際年を設定するのは今回が3度目だ。

 1967年に世界各国に観光振興政策の推進を要請するために「国際観光年」が設定され、次いで2002年に「国際エコツーリズム年」が実施された。

 国連は84年から「環境と開発に関する世界委員会」を設けて、環境と開発を互いに相反するものではなく、共存し得るものとしてとらえ、環境保全に配慮した節度のある開発の可能性を検討した。世界委員会の委員長を務めたのはノルウェーで最初の女性首相に選ばれたグロ・ブルントラント氏だった。

 87年に委員会報告を取りまとめた際にキー・コンセプトとして打ち出されたのが「持続可能な開発」であった。

 「将来世代のニーズを満たす能力を損なうことなく、現在の世代のニーズを満足させるような開発」が意図されていた。国連が「持続可能な開発(発展)」というコンセプトを打ち出してから世界的に「持続可能性」が共通課題になり、観光分野でも「持続可能な観光」が重要になった。

 今年が「持続可能な観光」のための国際年に指定された理由は国際観光の一層の隆盛化にある。00年の全世界の国際観光客数は6億8800万人であったが、15年には11億8600万人になり、30年には18億人に達すると予測されている。

 私はかつて「グローバルフォースとしての観光」、つまり世界を変える力としての国際観光の威力を指摘したことがある。

 今後ますます観光が環境のみならず、経済、政治、社会、文化などのあらゆる面に強いインパクトを生じさせるので、負のインパクトを少なくし、正のインパクトを増やす工夫、つまり「持続可能な観光」の実現が世界的課題になっているわけだ。

 国連は05年から14年までを「持続可能な開発のための教育の10年」に指定し、持続可能な開発を実現するために発想し、行動できる人財を育成する教育の振興に力を入れてきた。

 持続可能な観光を実現するためにはさまざまな立場のステークホルダー(利害関係者)間の適切な調整が不可欠であり、そのためには専門家が必要になる。より良い観光を創っていくためには専門的人財が不可欠であり、若い世代が本格的に観光立国に尽力できる体制づくりが何よりも重要になる。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

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