【特別寄稿】旅館業法改正の注意点 日本旅館協会政策委員長 下電ホテルグループ代表 永山久徳


 臨時国会で、旅館業法等の一部を改正する法律案が成立する見通しとなった。改正ポイントを整理する。

【特定感染症の定義】

 これまで、第五条における宿泊拒否が容認される理由の一つ「伝染性の疾病にかかっていると明らかに認められる」が不明瞭で、「はしか」など外見的な伝染病でなければ宿泊施設では判断できなかった。改正法では一、二類感染症、新型インフルエンザ等感染症などを「特定感染症」と総称し、その国内発生期間に限り宿泊客に協力を求めることが可能となる。

 事業者は感染者や感染が疑われる宿泊客に対し、客室からみだりに出ないこと、大浴場など共用施設を利用しないこと等を要請できる。発熱症状等が出ている場合、医師の検査、診断結果の提出を求める権利も生じる。

 無症状者についても、検温や健康状態の告知、マスクの着用などの協力依頼が可能になり「正当な理由が無い限り応じなければならない」とされる。ここが最大のポイントだ。

 しかしながら、与えられる上記の権限は感染症のまん延期間に限られる。基本的には、感染症が「発生した旨の公表」から「発生がなくなった旨の公表」まで、または感染症法の規定から外れた時までとなる。

【第五条の変更点】

 (現行)
 第五条 営業者は(下記)に該当する場合を除いては、宿泊を拒んではならない。
 一 宿泊しようとする者が伝染性の疾病にかかつていると明らかに認められるとき。
 二 宿泊しようとする者がとばく、その他の違法行為又は風紀を乱す行為をする虞があると認められるとき。
 三 宿泊施設に余裕がないときその他都道府県が条例で定める事由があるとき。

 (改正後)
 一 宿泊しようとする者が特定感染症の患者等であるとき。
 二 前条第一項の規定による協力の求め(同項第三号に掲げる者にあつては、当該者の体温その他の健康状態その他同号の厚生労働省令で定める事項の確認に係るものに限る。)を受けた者が正当な理由なくこれに応じないとき。
 三 ほぼ旧二項
 四 宿泊しようとする者が、営業者に対し、その実施に伴う負担が過重であつて他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求を繰り返したとき。
 五 旧三項
 特筆すべきは四項の追加だ。「負担が過重であつて他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求を繰り返したとき」拒否が可能となる。宿泊施設が五条に縛られていることは周知の事実であり、それにつけ込んだカスハラ事案も多かった。一定の抑止効果が期待できる。

【第五条以外の変更点】

 第六条では宿泊者名簿の記載義務から無意味な「職業」が除外され「連絡先」が追加された。食中毒などが発生した場合、迅速に連絡を取るためにも電話番号等は必要だ。

 また、宿泊施設を事業譲渡で取得した場合、知事の承認により営業者の地位を承継することが認められる。これまでは営業許可の再取得のために過大な提出物を求められていたからだ。

 また、今回の改正にあたり、一部団体から差別的な宿泊拒否が横行するのではないかという懸念が示されたことから、営業者に対して研修の機会を与えるように努めなければならないとの一文が加えられる。

【今回の改正の積み残し、問題点】

 待ちわびた改正とはいえ、目的はあくまで「新型コロナによる情勢の変化に対応」するものであるため積み残した点も多い。

 (1)「普通の」感染症が除外

 宿泊施設には常に多種多様の感染症が持ち込まれるリスクがある。しかし今回の改正では「はしか」等「普通の」伝染病は宿泊拒否の対象から外された。例年のインフルエンザ流行期でも咳込む宿泊客にマスク着用は依頼できない。今後の検討課題とすべきだ。

 (2)限定された期間

 例えば、国内感染も懸念される「サル痘」は特定感染症ではないので、宿泊者の渡航地や症状に疑念があっても本法の適用はない。今後新しい感染症が発生した場合、「特定感染症」が「発生した旨の公表」があるまで手が出せないため実効性は未知数だ。逆に、新型コロナが「二類から五類」に変更された時点でわれわれは丸腰になる。これでは実際の運用は難しい。

 (3)四項の範囲

 追加された五条四項は抑止力にはなるが、運用は難しそうだ。「宿泊サービス」への妨害に限定されるのでおそらく食事場所は対象外だろう。フロントでのトラブルも、他のスタッフで現場が回っていれば該当しない。ガイドラインや判例の積み重ねが必要となる。

【まとめ】

 欧米では多くの店舗の入り口に「客を断る権利は例外なく店側にある」と掲示されている。日本でも民法に「契約自由の原則」がうたわれている。一方、第五条は一方通行の契約を強いるものであり、矛盾解消のため削除を求める声、もしくは行き倒れの保護などを求める「拒否できない例外規定」であるべきという声が強かったが、結果的に条文の追加変更にとどまった。改正後の運用と問題点を見極め、さらなるアップデートを目指すべきだ。

 
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