
コロナ禍に突入以来、本コラムでは時々刻々と変化する状況に合わせて旅館がとるべき対応について、できるだけ現実に即してタイムリーな情報をお伝えすることに意を注いできた。今後も当面はそれを旨としていくつもりだ。しかし一方で、「それだけではいけない」ということも訴えていきたい。「ポストコロナ経営」への体質転換は「ウィズコロナ」の今こそ進めていくべきと考えるからである。
本稿が掲載されるのは、緊急事態宣言の解除/延長に結論が出ている時期だと思うが、いずれにしてもおそらく感染にはまだ顕著な歯止めがかかっておらず、多くの旅館が失礼ながら「ヒマ」ではないかと思われる。「じたばたしてもしょうがない」という状況かもしれない。しかしこの「ヒマ」な時期にこそ、これまでなんとなく放置されてきた課題=改革テーマに取り組まれることをお勧めしたい。
例えば生産性の向上…。
本欄では以前、「業務効率化への取り組み」をテーマに、かれこれ30回余り(<34>~<69>)にわたり提言・提案を行ってきた。
この中で、「作業時間の標準化」―作業時間を検証し、それをもとにあるべき人員態勢を割り出す手法―にもふれたが、果たしてこの時、ストップウォッチを片手にこれを実践された施設がどれほどあっただろうか…。
念のためその流れを簡単におさらいしておく。
(1)作業時間をストップウォッチで計測=「観測時間」↓(2)普通の人が普通の状態でやる場合を想定した「レイティング」やトイレ休憩などの「余裕時間」を加味して「標準時間」を算定↓(3)標準時間をもとに必要な人員の割り出し↓(4)それに従って人員配置↓(5)実施後に現場実情とのミスマッチを修正。
このプロセスはいわば「標準化とその実践」の最たるものである。「科学的な経営」につながるのだ。しかもこのやり方で成果の期待できる応用分野は実に幅広い。客室の清掃・セッティング、大浴場やパブリックの清掃、布団敷き・上げ、ベッドメイク、会場設営、食事会場の事前セット・後片付け、ブッフェのセッティング、食器洗浄、設備機器の日常点検と調整…など。
改めて問う。このような取り組みを貴館では行ってきただろうか?
仮に「まだ」だとして、次の問いかけは「それを今やってはいかがですか?」ということだ。休業中でなければ(あるいは休業が明ければ)、従業員はそれなりに出勤しているはずである。むろんギリギリ最小限の人員で回していることと思う。「今そんなことをやっている余裕はない」と思うならそれまでだ。が、しかし…。
それほど難しい、そして意味のない取り組みだろうか? そうした「耐乏経営」をやり続けるだけで、果たして「コロナ明け」となった時に明るい経営展望が開けるだろうか? 今ここで、「未来」を変えていく取り組みのために、労働資源と時間をほんの少し投入する余地はないものだろうか?
経営は行動である。今だからできる、今こそやっておくべきことを考えよう。
なおご希望の方には、前述の「作業時間の標準化」に関する本コラムのバックナンバー記事(<53>~<55>)をお送りするのでお気軽にご連絡いただきたい。
(リョケン代表取締役社長)