【岐路 バスと観光新たな関係39】高速ツアーバス誕生から終焉まで9 成定竜一


 以前にも書いたように、楽天トラベルとしては、新興勢力である高速ツアーバスを育てることだけがゴールではなかった。「既存」の高速乗合バスも合わせて取り扱うことも重要であった。

 そのための営業活動は、最初こそ、まるで「敵の大将がやってきた」とばかりに散々な目に合ったが、やがて個人的には共感してくれる相手も増えていた。契約に至るまであと少しと手ごたえを感じ始めていた。

 そんな中、どちらかと言えば「既存」各社の立場を代弁する日本バス協会と対立する組織を設立したと取られるのは本意ではなかった。それでも、事務局を引き受けることにした。

 足元では、「既存」側による高速ツアーバスに関する非難に社会が反応すれば、重要な取引先である高速ツアーバス各社が事業を継続できなくなるリスクがあった。

 また、率直なところ、高速ツアーバスを企画実施する、主に中小の旅行会社にはバスの法令および安全についての知識や意識が十分ではない者もいて、そういう会社が発注している中小の貸切バス事業者のレベルにも問題があった。「万一、スキーバス同様の重大な事故でも発生すると」という不安は消えず、高速ツアーバスの品質底上げは重要な課題であった。

 合わせて、新規参入者である高速ツアーバスを無法者呼ばわりするばかりで、彼らの急成長の背景にあるウェブマーケティングの活用に対し、いっこうに積極的にならない「既存」各社に対して、楽天トラベルの存在感を拡大させておきたいという思惑もあった。

 準備には相当の調整が必要であったが、2008年6月、高速ツアーバスの安全性をテーマにしたシンポジウムを大手新聞社主催で開催したうえで、同日に「高速ツアーバス連絡協議会」設立準備会を開催。同年10月には正式に発足した。

 2年目からは、WILLER TRAVELの村瀬茂高社長(当時)を会長に迎えた。当初の名称案(ツアーバス連絡協議会)の頭に「高速」を加えたのは、「ツアーバスは脱法的で決して『高速バス』ではない」と主張する「既存」各社への若干の抵抗からだった。

(高速バスマーケティング研究所代表)

 
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