【地域創生と観光ビジネス3】量から質へ「琉球の美に学ぶ」ホンモノ 品質保証と信頼回復を 淑徳大学経営学部観光経営学科学部長・教授 千葉千枝子


 EU欧州連合の執行機関・欧州委員会は、去る2月、これまでの到着ベースでの旅行者数や泊数といった定量的な指標とは異なる、持続可能な観光目標を採用するよう加盟国に求めた。

 実装はこれからだ。だが、各国ともに、環境配慮や経済影響など社会性を基盤としたKPI重要業績評価指標へと移行することで合意がなされ、ポストコロナの欧州観光は量から質への転換が確実となった。

 一方で日本政府は、アベノミクス三本の矢「成長戦略」で掲げた2030年インバウンド6千万人の目標は「継続する」との意向を示している。

 コロナ禍前夜の19年、たまたま立ち寄った京都駅構内の書店には、オーバーツーリズム関連の書籍が平積みでコーナー売りされていた。はんなりと、「来ないでください」と言われているような気がしたものだ。しかし、いざ観光客が霧消すれば、地域経済が回らない。コロナは私たちに、観光の功罪をみせつけた。

 昭和のマスツーリズムの教訓は生かされず、平成の世も似たような過ちを犯してしまったかもしれない。令和の時代は、入域適正値をあらゆる角度から導きだし、持続可能な観光目標を見直す作業が求められる。

 さらに重要なのが品質保証である。QCサークルに代表される品質管理は、日本のお家芸ともいわれた。だが平成不況に入ると、不正や偽装が相次ぎ、信頼が揺らいだ。Go Toトラベル事業における一連の不祥事で、旅行業のコンプライアンスが問われたばかり。今後は消費者の信頼回復に努め、TQC総合的品質管理を推進することが業界の急務といえる。

 日本の観光に、もう一つ必要なのが、ホンモノへの追求である。今後、ホンモノを求める旅は、需要が高まるものと予見する。

 その一例が琉球芸能である。今でこそ劇場等での上演が主流だが、太古の昔は城内のさまざまな場所に畳などを敷き、そのとき限りの舞台空間を設けたとされる。

 一般社団法人琉球伝統芸能デザイン研究室が、21年暮れに行ったイベント「琉球の美―首里城で感じる”ホンモノのモノ”―」は、同法人の代表理事で沖縄県指定無形文化財の沖縄伝統音楽湛水流保持者・山内昌也氏が織りなす歌三線と、演者会員で琉球舞踊家・西村綾織氏による演舞の饗宴で構成された。

 それだけでもホンモノだが、身にまとう紅型着物は琉球紅型三宗家の一つ、350年の歴史をもつ知念家伝来のもの。首里城公園インフォメーションセンター首里杜館の一角、いわゆるユニークベニューで開催された。

 琉球文化の保存・継承、発展寄与を目的に、古来の手法で空間創造をして、琉球古典芸能を披露する。無形文化の空間デザインという概念が高く評価され、日本デザイン振興会の20年度グッドデザイン賞を受賞した。「琉球の美」に学ぶ点は多い。

 ボリューム・インセンティブで旅の薄利多売を競う時代はとうに去った。品質保証や品質管理を徹底し、業界の信頼回復に努め、価値ある資源=ホンモノの目利きとなって、その先導役を果たす。個人ではかなえられない“特別感”を提供する。そのとき消費者は、旅行業を大いに頼ることだろう。
(淑徳大学 経営学部 観光経営学科 学部長・教授 千葉千枝子)          

 
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