【地方再生・創生論 166】災害に備え、ボランティア条例を 日体大理事長 松浪健四郎

  • 2020年5月23日

 毎年10月末にはヒンズークシ山脈の頂は雪で白く染まる。首都カブールに冬の到来を伝えてくれる。ほとんど秋のないアフガニスタン、この国に私は3年間暮らした。紀元前15世紀、ヒッタイトにも秋がなかったと教えられたが、長い冬こそが砂漠の民の命を救ってきた。峰々の雪こそが、その溶けた水こそが、荒涼とした、荒漠とした大地に緑のまぶしいオアシスをつくる。川もあるが「カレーズ」(地下水脈)が古代からの水源であった。

 アラブ社会では「カナート」と呼ぶ。自然のものもあれば人工のものもある。古代ペルシア人にはカナートを発見する職人もいて、エジプトやアラブに招かれたと歴史書にある。カレーズの水は生活用水であるばかりか農業用水でもあった。“我田引水”を許さないためか、多くの農場はアフガニスタンにあっては、ザミンダールと呼ばれる地主が所有し、多くの農家は小作農であった。水の配分の難しさからか、この制度が定着していた。

 雨期があり、年中雨が降るアジアのモンスーン地帯では、どんな所でも生活することができる。井戸さえ掘れば水を容易に手中にできるばかりか、何の問題も生じない。水量に限りがないためだ。が、砂漠地帯にあっては、井戸を掘ったところで、水は湧いてこない。カレーズ近辺を掘れば水が出るにつけ、そのカレーズを歴史的に使っている下流に住む人たちは憤慨するに違いない。

 水の豊富なわが国にあっても、どの地でも水利組合がある。いかに水の分配が難しいかを物語る。河川や道路といった公共のものは、公共事業に委ねないことには、問題が生じる。限られた水量は、耕作農地をも制限する。誰だって農耕地を増やしたいが、水量がそれを許してくれない。全国に棚田がある。耕作できる地は、私たちの祖先は開拓してきたが水があればこその話。アフガニスタンにも全国に棚田がある。谷から水が引ける地にあっては、彼らも熱心に耕作してきたのだ。

 「風土」によって思想、文化、生活、宗教が異なる。約35年にわたり中村哲医師がアフガニスタンで、井戸掘りや用水路建設のボランティア活動を続けられた。だが、銃弾に倒れてしまった。伝統的な民族の掟であるバダルと呼ばれる復讐(ふくしゅう)であろう、と見られている。10年前にも中村医師と行動を共にしていた若者が殺害された。やはりバダルと決めつけられていた。

 わが国にあっては、毎年のごとく各地で自然災害の被害に遭っている。活躍し、支援に汗を流す全国から集まってくるボランティアの人たち、私どもの日体大も多数の学生を派遣してきた。しかし、ボランティアのルールが全くない。日当、食事、宿泊、交通費、全て自腹。ボランティアである限り理解することができるが、さらに多くのボランティアに協力を願うためには、各自治体が独自の条例を制定しておくべきだと私は考える。

 災害は予告なしにやって来る。十分な待遇など必要ないが、ボランティアが被害地に赴いて心配せずに活動できるように、あらかじめ条例で決めておくべきである。自治体の危機管理上、住民を救う手段として好ましい方策であろう。一つの自治体だけではなく、近隣の自治体が協力して共同の条例も必要である。災害に襲われる地域に区切りがないゆえ、近隣の自治体が互いに協力することが大切である。

 自治体には多くの公共事業での復興という大きな仕事がある。個人の住宅、住民の世話といった仕事には限られた役人の人数では対応できない。ボランティアに助けを求め、協力していただく風潮が全国的に定着している。どんな立派な犠牲的精神、公共心を発揮しようとしても、自治体の理解があればありがたい。

 ボランティア活動する人の保険だって重要である。ボランティア保険に自治体が加入し、活動してくれる人たちの保障も忘れてはなるまい。もっとも何も期待しないのがボランティア精神であろうが、毎年のように災害に遭う限り、ルールを制定すべし、だ。アフガニスタンにもボランティアのルールがあったなら、大切な日本人の尊い命が奪われることはなかった。

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