【地方再生・創生論 142】台風15号が残した教訓 日体大理事長 松浪健四郎

  • 2019年11月8日

 毎年、大きな台風が日本列島を襲う。しかも台風のルートが毎回異なり、被災する地域も異なる。昨年、わが家のサンルームの屋根がふっ飛び驚いたが、こんな被害は小さく、家屋を失った人たちも多数いた。また、停電が長引いて、日々の暮らしに苦労された方々も多数いた。特に令和元年の台風15号は、新しい教訓を残してくれた。

 わが国の3分の2が山である。その山には、戦後、政府は1ヘクタールに3千本の造林をさせたが、その森林が木材価格の低迷で経営できず、放置されたままになっている。光の入らない森林の土壌は弱くなり、水に流されやすくなるという。台風15号は、そのことを教えてくれた。樹木が倒れて電線を切断したり、電柱までも倒してしまった。この倒木が原因で停電を長引かせ、住民を苦しめた。

 電線を地下に埋設せず、電柱に頼ってきた日本。千葉県の東部地方は倒木によって電柱も倒れて停電、東京電力が苦戦を強いられた。自衛隊が出動し、多くのボランティア活動もあったが、倒木を所有者の許可なくして切断できないために処理に時間がかかった。自治体は、あらかじめ電柱近辺の倒木については、所有者と相談して切断しておく必要がある。あるいは、条例を定めて強風に対応できるようにしておかねば、千葉県の教訓が生きてこない。

 山林の所有者に対して自治体は干渉してこなかったが、間伐によって土壌を守り、伐切によって道路や電柱を守るために、新たな政策が求められるようになった。さらに、木材価格の低迷によって所有者が山の手入れをせずに放置、樹木の状況について知る者が不在となっている。千葉県の場合、ブランドになっている「山武(さんぶ)杉」が「スギ非赤枯性溝腐(ひあかがれせいみぞぐさ)れ病」にかかっていて、風によって倒木、道路が防がれてしまった。大木の中心部に大穴があり、弱くなっていたのである。

 条例等によって、自治体は道路近辺の大木は毎年のようにチェックしておく必要がある。10数年前の記憶、私が衆議院文部科学委員会の理事として調査団に加わったことがあった。やはり台風による被害で、国宝の五重塔が倒れたのである。杉の大樹が倒れ、五重塔を一撃したのだ。奈良の女人禁制で有名だった室生寺、名だたる五重塔が杉によって押し倒されてしまい大問題となったのだ。

 台風の1カ月前、農林水産省が室生寺の樹木を1本1本チェックし、「問題なし」というお墨付き。だが、3本も4本も大木が倒れてしまったのである。

 倒木の中心部には大きな穴、空洞がポッカリ。政府のチェックが甘かったのである。結局、文科省は文化庁と協議し復旧費用の全額を出すこととなった。確か20億円近い出費だった。以後、寺院の樹木の調査は厳密になったが、それ止まりで終わった。

 屋久島の売りは、巨大な屋久杉の森であろう。が、ときに巨木の屋久杉が台風で倒れることがある。たいていは中心部に大穴がある。なぜ空洞ができるのかは植物専門家に任せるにしても、樹木を鑑定する人材を自治体は職員として雇用するか、あるいは非常勤職員として置くか、樹木を持つ自治体は考えねばならない。

 樹木医の存在もあるが、樹木職人だけを頼りにするのは危険である。戦後、わが国は全国で熱心に植林してきた。それらの木は70歳以上の樹齢だけに、チェックが必要である。

 日体大近辺は世田谷区でも桜の名所。しかし桜新町から日体大の桜の街路樹は、おしなべて老齢。倒れる太い桜の中心部は、やはり大きな穴が開いている。

 また、世田谷区は樹齢や樹木の様子を見ているのか大胆に幼木と植え換えをしている。森林のみならず、街路樹のチェックも必要なのは申すまでもない。

 樹齢とさまざまな樹木の病気、日本の樹々が危機に瀕している状態が台風によって浮き彫りになった。樹木によって被害を大きくし、復旧を妨げた教訓を自治体は心すべしだ。

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