【地方再生・創生論 131】自治体にも”迎賓館”を 日体大理事長 松浪健四郎

  • 2019年8月16日

 滋賀県守山市を訪ねた。歴史のある街で、江戸から京都へ入る最後の宿場町という感じで、その風情を堪能した。夕方から宮本和宏市長は、私ども一行を旧家を改造した和食レストランに招待して下さった。店は市のものなのだが、経営は民間に委ねているとはいえ、守山市の迎賓館に映った。

 地場産の近江牛を中心に郷土料理で接待して下さった。毎月、私はあちこちの自治体を訪問させていただき、自治体幹部と夕食を共にする。ほとんどは、その地の料理屋さんかレストランである。地方自治体は、知事には公邸があるにつけ、市や町の首長には公邸がない。ぜいたくだと決めつけられているからだし、首長の地位も軽いものになってしまった。守山市を訪ねて思ったのは、各自治体も賓客を接待する施設のようなものを持つ必要性だ。

 どの国家も外交力強化の一環として、大使公邸や総領事公邸で賓客をもてなす。そこには自国から呼び寄せた公邸料理人がいて、外交の武器にしているのが一般的である。2013年にユネスコが和食を無形文化遺産に登録したことによって、各国にある日本大使公邸や総領事公邸での招宴外交には人気があり、日本外交の底辺を支えてくれている。その国での人脈づくりや交際を広げるのに役立つばかりか、情報収集、政策づくりにおいても重要である。

 私は各自治体も時代の変化により、あらゆる機関、組織と連携をとらねばならなくなってきたと思う。関係を深めるためには、会話を弾ませて胸襟を開くのは、やはり宴席に限る。そのための施設を各自治体が持っていない。つまり、各自治体は国の外務省のような部署を持たず、かろうじて渉外係を持つにとどまる。いかに内向きの政治ばかりに取り組んできたか、各自治体も発想を変えねばならないであろう。もう、世界中から賓客がやって来るのだ。

 各国にある日本大使館等で困っているのは、腕の良い公邸料理人を確保するのが難しいことである。外交の足腰強化に役立つ日本料理、これを支えてくれる和食料理人が多くはいないのだ。給料が十分でない、自由時間が少ない、外地での生活を好まない等の理由もあろう。大使や総領事が赴任国の内示を受けての最初の仕事は和食料理人のスカウトだが、短時間で料理人と良好な人間関係を築くのは難しい。で、途中で料理人が帰国したりもする。

 給料が安いためにタイ人やフィリピン人の和食料理人を雇用する公館も少なくない。料理人は招待客の前に出ることはないので、外国人でもいいにしても和食を日本人が作らないのは悲しい。料理人の給料は国が出すが、それでは十分でないため大使や総領事がポケットマネーでプラスする。

 それでも世界的な和食ブーム、腕のいい和食料理人は外国の高級ホテルに法外な給料でスカウトされる。その争奪戦は、私たちの想像を超える。天ぷら料理、鉄板焼、かかる料理店は世界中にある。各自治体にあっては、郷土料理があるのだから大きな武器となるが、それを公的に利用しようとはしない。封印した背景には、宴席はぜいたくで無駄、一部の高官の特権と決めつけられてきたからであろう。欧州の大学を訪問すれば大学が迎賓館を持っていて接待してくれたことを想起するが、自治体も賓客を迎えることができるように工夫すべき時代に入っている。

 その地の食材を用いた郷土料理を提供し、自慢の地酒やワインでもてなす。古い民家を自治体が買収し、内装を近代的にすれば魅力的な館となる。これを迎賓館にすればいいのだ。郷土料理と宿泊でもてなす、あちこちから視察団が来訪するに違いない。既存の発想と役所の組織を見直す時代に突入している。

 同じ食べるにしても、人は権威を感じさせる席で食することによって満足する。時に私も総理公邸や議長公邸の宴席に招かれるが、何となく満足する。各自治体も多くの人たちを満足させ、行政に協力してもらう発想も大切だ。自治体の欠落しているのは、外交力である。

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