【地方再生・創生論 123】人を吸引する東根市の手法 日体大理事長 松浪健四郎

  • 2019年6月21日

 私の友人にマラソン日本記録を樹立し、3度もオリンピックに出場した宇佐美彰朗氏がいる。日大大学院で共に学んだ学友でもあるが、記録を伸ばすためにどうすべきかを院生で協力したので、マラソンに興味を持つようになった。箱根の大学駅伝はもちろんのこと、長距離走が好きなので、毎年、年末の京都で行われる全国高校駅伝の観戦も欠かさない。

 バルセロナのオリンピックで日体大同窓の谷口浩美、有森裕子両選手の応援をした経験があるが、人間が二本足で動物並みの走行をする営みは、ただ走るだけなのに魅力がある。それは自分との戦い、自己の挑戦を本気になって取り組む姿が美しいからに他ならない。

 日体大が山形県東根市と「スポーツ・健康づくりに関する協定」を締結したのを機に「さくらんぼマラソン大会」に招待された。果樹王国・東根市の主催する第18回大会、この市民マラソンを視察して、地方の大会のありようを考えてみたいとも思って東根市を訪れた。なんと、山形空港から車でたった10分の距離に「さくらんぼ東根温泉」街があった。

 早速、さくらんぼが出された。さくらんぼの王様「佐藤錦」に舌鼓を打つ。さすがに本場、表現のしようもないほどうまい。米国・ミシガン州の東ミシガン大に留学していた折、友達に誘われて、さくらんぼ取りのアルバイトに行ったことを想起した。後年、オレンジとさくらんぼを米国が日本へ輸出すると決め、大騒ぎしたことがあったが、私は輸入を認めてもいいと思っていた。その理由は、あの味を日本人が好まず、売れないと確信していたからである。ただ粒が大きいだけで、味は佐藤錦とは勝負にならない。

 マラソン大会は約1万5千人の参加、早朝から大会が始まるため、前泊する選手も相当いたのには驚いた。海外からの選手、沖縄、北海道からもエントリーしているではないか。マラソンマニアが無数にいるとはいえ、この山形の東根市まで全国から集まって来ている。

 市民マラソンとはいえ、記録や優勝を狙っているランナーが多数いるという。常連も多いらしい。特別招待選手として、6年前に箱根駅伝で日体大が優勝した時、区間賞を取った矢野圭吾(カネボウ)、服部翔大(ホンダ)の両選手が走った。両選手は、「市民マラソンだからといってなめてかかると負けてしまうので、本気で走りました」という。特に東根市のマラソンは季節もいいので、いいランナーがそろうらしい。

 全国各地でさまざまな市民マラソン大会が開催されているが、この東根市の大会は文字通りツーリズム・マラソン大会になっていた。温泉とさくらんぼに加えて梅雨前の好季節、そしておいしい実をつけたさくらんぼの樹々に囲まれたコースを走る。所々では、さくらんぼも提供され、走りながら食べるランナーたち。広い陸上自衛隊の神町駐屯地が、スタートとゴール。芝生の広い運動場の周囲はテント村、ラーメン店から土産物店、隣の河北町の店もあった。数年前、紅花資料館に行ったことがあるので懐かしく思った。

 この東根市は、毎年、住民数を増加させている珍しい市である。過疎化で頭を痛める自治体が多数を占めるのに人口を増やす。市をぐるりと回ってみると、納得もする。このマラソン大会が“一事が万事”、人々を吸引する手法、研究が行き届いているではないか。工業団地にびっしりと企業が根を下ろし、従業員たちが東根市に住む。住環境も整備されていて、イオンをはじめ有名店も多数あり。

 11月には、すぐ近くの天童市で「天童ラ・フランスマラソン」が開催される。多分、天童温泉だけでは泊まれない。それは東根市の「さくらんぼマラソン大会」も同様、東根温泉では収容できず、天童温泉を利用するランナーも多いという。この二つのマラソンは、間違いなく地域活性化に貢献していた。土田正剛東根市長の意気込みは尋常ではなく、東根市民が一丸となって開催する大会。リピーターが増える秘密は東根市の市民力にありそうだ。

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