
非公開会員制レストラン「WATF secret farm」でいただいたお料理の続き。
3品目の菊芋は、二皿で提供された。一つは生を薄くスライスしたモノ、もう一つは低温で火を入れた後炭火で焼いたモノだ。菊芋って何?という方のために、ちょこっと解説。菊のような花を咲かせ、芋のような塊茎(かいけい)ができることから、この名が付いたという。見た目は大きなショウガみたいな感じ。古森シェフが生の現物を見せて下さった。筆者は血糖値の研究をされている方に教えていただいたことがあるので知っていたが、同席の方々は「初めて見た!」との反応。
近年スーパーフードとして人気沸騰中だが、何に役立つの? 菊芋に含まれるイヌリンという水溶性食物繊維が、食後血糖値の急上昇を抑えてくれる上、腸内環境の改善や、血中の中性脂肪を低減させる効果があるとされている。さらにシェフから驚きの情報が! 何と、チェルノブイリ原発事故で汚染された土地で栽培された野菜の中で、唯一菊芋からは放射線が検出されなかったとか。「都市伝説みたいになっていますが…」と仰ったが、実はちゃんと根拠があった。
ベラルーシにある「ベラルド放射能安全研究所」の副所長が2011年に来日、講演で「菊芋はチェルノブイリの土壌環境でも放射性物質を吸収しなかった」と述べたのだ。菊芋に含まれるイヌリンは、放射性物質を吸収しないばかりか、排出も手伝ってくれるそうだ。体内の有毒物や老廃物を排出するデトックス効果が高いとされている。
さてそのお味は? 生は初めて食したが、シャキシャキで甘くておいしい。火を入れた方は、ホクホクでさらに甘味が強く、ちょっとネットリ感もあって、ムチャクチャ美味。どちらも甲乙つけがたいおいしさ♪
「菊芋を作った畑で、しばらくは他の作物が育たない」とシェフ。そんな話題から、10年前は軽トラックを買うお金がなくて、採れた野菜をカゴに入れ、農場から電車で都内に運んでいたと話された。そこから6店舗も構える企業に育てた、シェフで社長の古森啓介(ふるもりけいすけ)氏。野菜の一番おいしい瞬間を引き出す料理の腕前と経営手腕、共にスゴイ!
お料理に戻ろう。いろいろな意味で衝撃的だった菊芋のお次は、日本ほうれん草のピリ辛お浸しに道産甘エビを載せた一品。寒くなると葉に厚みが出て、甘味を増すというシェフの説明通り、甘い! イラン原産だが16世紀ごろ中国を介して日本に伝わり、各地で固定種が生まれたとされる。日本ほうれん草はアクが少ないのが特徴だそう。ほうれん草と甘エビの甘味の掛け算が、ピリ辛なタレでさらに増幅して甘ウマ♪
5品目は、聖護院大根(しょうごいんだいこん)と氷見の寒ブリのブリ大根。京の伝統野菜で球形の聖護院大根は、肉厚で煮崩れしにくく優しい甘味が特徴。トロトロに煮た大根と、富山県が誇るブランド「ひみ寒ぶり」との組み合わせは、間違いないおいしさ!
口福の野菜コース、続きは次号をお楽しみに!
※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。
(2025年2月17日号連載コラム)