11月に入ってから、東京都を中心に各都市で新規感染者数が大幅に増加し、新型コロナウイルス感染症は新たなフェーズに入ったと言えます。一部の報道では、市中の気の緩みも指摘されているようですが、むしろ今回の新型コロナウイルスは、気温の低い環境における生存期間が非常に長いこと、また湿度が低下するとエアロゾルの状態で空間中に長く存在する可能性があること等が強く影響しているように考えられます。オーストラリアにおける新規感染者数の動向を見ますと、冬場であった6月から8月に大幅に増加した後、春先である9月に収束しています。以上から、日本においては、この11月から春先まで間が第三波となり、相当数の新規感染者数増が懸念されます。来年にはワクチンの供給も期待されますが、それまでGoToトラベルキャンペーンの継続、春先から徐々に計画されるインバウンド市場の再開、さらにはオリンピック・パラリンピックを実現するためにも、今こそこれまでの経験を活かし、日本ならではの主眼や手法にたち一丸となってこの難局を乗り越えねばなりません。 宿泊施設品質認証制度「サクラクオリティ」では、2020年2月から感染症対策検討委員会の発足を検討し、現在では奈良県立医科大学感染症センターをはじめ、多くの感染症専門家の皆様にご協力をいただきつつ、全国の多くの地域で感染症拡大防止対策構築のご協力をさせていただきました。今回はそれら経験から、この冬場こそ最善を尽くす時と考え、今こそ必要な取り組みとはどのようなものであるのかをご紹介したいと思います。
新型コロナウイルス感染症については、夏場まで分からなかったことが今では多くのことが分かっています。これまでのウイルスとは異なり、症状の発症までの間に最も強い感染力を有するという「ステルス性」がある他、上記のとおり環境に長く存在することが分かっています。口からの飛沫よりも便からのウイルス量が多く、トイレでのエアロゾル感染に注意が求められます。ウイルスの構造では外側の膜には脂質構造が見られ(エンベロープ(E)タンパク質)、その結果ノロウイルスでは効きにくいと言われるエタノール消毒で十分消毒が可能です(エタノール濃度70%~80%が望ましい。)。新型コロナウイルスは単独で増幅できません。宿主細胞を複製工場として利用します。その感染機構には、現在は4つの感染機構が報告されています(2020年11月時点)。新型コロナウイルスの感染経路には、飛沫感染、2次感染である接触感染及びエアロゾル感染という3つの感染経路があると言われています。夏場では、体外環境においてインフルエンザウイルス等よりは長いものの2~3日の存在時間であり、接触感染対策である消毒も重要であったものの、感染としては約90%が飛沫感染と言われました。気温が低下する冬場においては、体外環境においても1カ月以上ウイルスが失活せず存在している可能性があり、飛沫感染対策の徹底の他、消毒による接触感染の徹底防御が求められます。特にテーブル消毒では、テーブルに近い距離(テーブルから離して噴霧すると揮発し濃度低下が懸念されます。)から濃度70%以上のエタノール消毒液を使用し(濃度50%程度も多く見られます。)、一方方向で拭くこと(一方拭き)を徹底して行う必要があります(往復拭きをすると失活しきれなかったウイルスを拡散することに繋がります。)。また、施設側だけでは不十分です。感染対策の意識の高い顧客も多いはずで、顧客が自由にテーブル等を消毒できるよう、消毒セットを感染リスクの高いロケーションに設置することが望まれます(なお、客室内は危険ですので置かないこと。)。また、湿度の低下はエアロゾル感染に繋がります(ウイルスに埃や水分が付着し0.005mm程度の微粒子の状態で浮遊)。特にバックヤードでは二酸化炭素濃度が0.1%未満の環境であるか継続して計測すること、また徹底した換気を当面の間実施する必要があります。
一般社団法人観光品質認証協会 統括理事
㈱サクラクオリティマネジメント 代表取締役
㈱日本ホテルアプレイザル 取締役
不動産鑑定士,MAI,CRE,FRICS 北村 剛史
北村氏