北海道の根室線に、滝川駅から釧路駅までを結ぶ「日本最長の鈍行列車」が走っていました。走行距離は308キロ。国鉄時代のディーゼルカーによる運行で、所要時間は8時間に及びました。
筆者がこの列車に乗ったのは、2009年のことです。ガラガラだろうと高をくくって発車間際に滝川駅に着いたら、意外ににぎわっていて、席を見つけるのに難渋するほどでした。
連休中だったので、乗客の多くは観光客で、途中、テレビドラマ「北の国から」の舞台として知られる富良野駅や、映画「鉄道員」のロケ地である幾寅駅などで下車していきました。帯広駅では長時間停車があり、駅構内の豚丼店での食事が楽しめます。滝川駅で午前中に乗車して、釧路駅に着いたのは日没後。北海道の広さを感じさせてくれる列車でした。
この列車が運行を終了したのは2016年8月。ダイヤ改正が契機ではなく、台風で線路に被害が出て、途中の東鹿越―新得間が不通になったためです。
JR北海道は、この区間の復旧をせず、鉄道路線を廃止する方針を示しました。沿線自治体は反発したものの、利用者がきわめて少ない区間でもあり、国や道も復旧を支援する姿勢をみせません。地元自治体としても為す術がなく、被災から5年以上がたった今年1月28日に廃線の受け入れを決めました。これで「日本最長の鈍行列車」の復活は不可能となり、その歴史に終止符が打たれました。
廃止されるのは、不通区間を含む富良野―新得間の約82キロです。現在運行している富良野―東鹿越間も廃止となります。
この区間にある幾寅駅も廃止されます。映画「鉄道員」では廃線間際の駅という設定で、高倉健が列車を見送るシーンが印象的でしたが、現実の幾寅駅は「さよなら列車」を見送ることすらできぬまま、終幕を迎えてしまいました。
現在の日本最長の普通列車は、敦賀―播州赤穂間を結ぶ「新快速」、次いで熱海―黒磯間の上野東京ラインです。ただ、いずれも大都市圏の通勤電車で、「鈍行」とは呼びづらいです。
鈍行と呼べそうな列車としては、旭川―稚内間の宗谷線列車が日本最長のようです。走行距離259キロ、所要時間は約6時間で、乗りごたえは十分あります。日本最北の駅へ向かう列車ということもあり、今後は旅行者の人気も高まるでしょう。
(旅行総合研究所タビリス代表)