
新しい時代へのチャレンジ~ReStart~
世界最大級 旅の祭典「ツーリズムEXPOジャパン2022」が22日から25日までの4日間、東京ビッグサイト(東京都江東区)で開かれる。2018年以来4年ぶりの東京開催。今回のテーマは「新しい時代へのチャレンジ~ReStart~」で、再び世界各国、日本各地の観光関連事業者が集結し、旅行需要回復に寄与、観光産業の復活、再生、経済への貢献を目指す。開催を前に、主催する日本観光振興協会(日観振)の久保田穣理事長、日本旅行業協会(JATA)の髙橋広行会長、日本政府観光局(JNTO)の清野智理事長に事業の内容や、国内観光、インバウンドの現状と課題について語ってもらった(東京のJATA本部で)。
旅行の現状
――(司会=本紙編集長・森田淳)コロナ禍が続く中で、国内観光とインバウンドの現状をどう捉えているか。
髙橋 今年の国内旅行については、ゴールデンウイーク、夏休みともに行動制限がなかったことで、全般的に回復基調にあるものの本格的な回復には至っていない。全国各地域で県民割、ブロック割などが行われているため、全体的な傾向としては近場の旅行に集中している。また、コロナによる影響として、旅行者から見て少々高くても安心・安全が担保されている旅行が増えている。今後、交通機関付きのロングの旅行回復には全国旅行支援の一日も早い開始が必要だ。
インバウンドについては、水際対策の一部緩和後、各国からの問い合わせが増えた時期があったが、入国者数の上限やビザの問題が大きく、現在は完全に動きが停止してしまった。世界経済フォーラムの観光競争力で日本が世界第1位となった世界からの期待や、空前の円安といった追い風は生かせておらず、国益を損ねている。やはり水際対策については、緩和ではなく完全撤廃が必要だ。
日本旅行業協会(JATA)会長 髙橋広行氏
清野 日本のインバウンドは、2011年に東日本大地震が起きて前年の860万人から620万人まで落ち込んだ。12年以降、国の政策として「観光立国」を推進したことにより、19年に3千万人まで伸びたが、コロナで大きくつまずいた。今はほぼゼロだ。ただ、この2年半の間、欧米、東南アジア、東アジアなどでの各種のアンケート調査で日本への旅行に対する期待は依然として非常に高いことが分かった。日本は本当に安全だし歴史があるし、自然も食べ物もある。そういうことが評価されているからだ。われわれは自信を持って良い。
しかし、現在はビザの問題がある。JNTOのアメリカの事務所でも、いつになったら自由に日本に行けるのかという問い合わせが非常に多かったが、最近はそれが減ってきた。いつになるか分からないなら、同じアジアならシンガポールやタイに行くというようなことになってきてはいないか、心配だ。早くビザを元の状態に戻してほしい。
日本政府観光局(JNTO)理事長 清野 智氏
久保田 インバウンドは、10年前は1千万人未満の推移だったが、ビザを緩和したり、廃止したからぐっと増えた。その逆のことをやったら減るのは明らかだ。
国内については、旅行の自粛がずっと続き、地域の旅館・ホテルを含め観光産業が極めて弱体化しているのが一番問題だ。特に借入金が相当増えている。経営者の皆さんからは「返す時にはどうしよう」という声も聞かれる。雇用調整助成金などを活用しながら何とか延命している。コロナが収まって旅行需要が戻った時に攻勢をかけられるだけの経営体力があるのかという極めて深刻な状況にある。観光庁もさまざまな支援政策を打っているが、今後まだ長期的に問題を引きずっていくのではと危惧している。
人材不足の問題もある。旅館・ホテル業のほか、バス、タクシーといった観光を支える産業の人たちも他産業に移ってしまった。地域の観光を支える力が非常に衰えてきている。
日本観光振興協会(日観振)理事長 久保田 穣氏
開催テーマ
――ツーリズムEXPOのテーマ「新しい時代へのチャレンジ~ReStart~」にはどんな思いが込められているか。
髙橋 ツーリズムの新たな再出発、もう一度前向きに仕切り直す意味を込めて「ReStart」とした。コロナ禍という未曽有の事態を経て、旅行者の価値観にも大きな変化が生じた。旅行業界もその価値観に対応できるように変わっていかなくてはならない。旅行ニーズもこれまでの価格重視から安心・安全がしっかり担保されているものへと変化しており、対応していく必要がある。重要な点としてSDGs対応については世界共通のテーマであり、待ったなしの状況だ。世界の観光先進国は数歩先を進んでおり、日本の旅行業界も対応していかなくては世界から取り残されてしまう。
今回のツーリズムEXPOでは、多くのプログラムに環境問題のテーマを取り入れた。フォーラムのテーマを「観光による気候変動への挑戦」とし議論を行う。また定期航空協会会長であり全日本空輸の井上社長に航空業界における脱炭素の取り組みについて講演いただく。観光大臣会合でも観光による気候変動について各国の観光分野での取り組みと併せて議論を行う予定だ。注目していただきたい。
清野 かつて観光は物見遊山とみられていた。ぜいたくとも言われた。だが、人間が人間として生きていくためには、いろいろなものを見たり、人と会ったり、他の文化に触れてみたり、あるいは温泉に浸かるのも大事だ。そういうものを観光業界全体で担っているということを再認識して、もう1回原点に返り、みんなで頑張っていこうという意味でのReStartだ。
コロナ前の観光庁データで観光は国内全体で約30兆円の産業になった。インバウンドは、19年の数字で5兆円だ。日本の輸出で1番大きな産業は自動車で、2位が化学製品。インバウンドは、外貨を稼ぐわけだから輸出と考えてよく、それが3位だ。それだけ大きな産業になっていたが、一気に蒸発してしまった。日本がこれから生き残っていくためにも外国からもっと来てもらわないといけない。また、この5兆円をもっと増やすには同時に単価を上げていく必要もある。
久保田 コロナ禍を経て、旅行のスタイル、仕事のスタイル、そしてライフワークバランスなどがいろいろな形でかなり変わってくる。例えば、密を避ける行動が出てきた。ワーケーションという新しいスタイルも芽が出始めた。他にもいろいろと形が変わってくるが、そういうものをしっかり捉えて、観光、旅行のビジネスの面でもしっかり対応していこうという方向性をツーリズムEXPOの場を通じて発信していきたい。それがこのテーマにつながっている。
われわれ日観振と清野理事長のJNTOが主催するシンポジウムでは、環境や気候変動、CO2といったSDGsに関わることを共通のテーマにしている。日観振では教育旅行とSDGsを結び付けた具体的な手法などを提示する企画も立てている。特に外国の方々はSDGsへのマインドが高いから、旅館・ホテルが国際認証を取得した事例など各地のSDGs推進の取り組みなども紹介していきたい。
4年ぶりの東京開催
――東京での開催は18年以来。東京から何を国内外に発信していくのか。
髙橋 大きく2点ある。コロナ禍の2年半で国内旅行も海外旅行も訪日旅行も全ての旅行需要を失ったと言える状況だ。一つ目は、先ほど「ReStart」として話した通り、日本のツーリズムが再び元気を取り戻し、復活、再生に向け動きだすことを国内外に向けて発信することだ。しかしながら、海外に向けては日本のツーリズム復活をアピールしながらも、このような半鎖国状態のような水際対策が残っていることは極めて説得力に欠ける。開催までに水際対策の問題を解決してほしいという希望を強く持っている。
二つ目は、SDGsへの取り組み、特に環境問題についてである。先ほどの通り今回のフォーラムでもテーマを「観光による気候変動への挑戦」とし、観光大臣会合でも議論を行い世界に発信する。日本がツーリズム分野でリードしていくという姿を世界に示していきたい。
清野 JNTOは今年もツーリズムEXPOとの合同開催で訪日旅行商談会「VISIT JAPAN トラベル&MICEマート」を開催する。オンラインに加えてリアルでも商談会を行う。外国からの参加者の予約状況は、オンライン参加が約200社、リアルでは約50社の参加で、ファムトリップにも行っていただく。日本に駐在している外国のエージェントも含めるとリアルの参加は60社ほどとなる。
インバウンドについての日本側の取り組みは今まで通りではだめだ。19年までは外国から3千万人のお客さまが来られたが、東京~大阪のゴールデンルートに固まっている。京都には文化的なものが豊富だが、実は魅力がある地域はほかにもたくさんある。一極集中ではなく、地方にも目を向けてもらえるよう、今回のファムトリップでは地方に光を当てた六つのコースを作っている。それらのコースでは、サステナブル・ツーリズムやアドベンチャートラベルなどの付加価値が高いコンテンツを体験していただく。
久保田 先ほどの髙橋会長の話にもあったが、全体的には観光大臣会合やフォーラムにおいて「気候変動に挑戦」といったテーマで環境などのSDGs対応について発信していくので、多くの成果が得られるのではないか。特に観光大臣会合は多くの大臣に来てもらえるよう調整している。
国内ではコロナの第7波がじわじわと下がりつつある。土、日曜日には一般の方々にたくさん来場してもらい、「旅行を自粛する機運」から「旅行をする機運」へとますますつながっていけばといいと期待している。
個別のテーマになるのだが、「酒蔵ツーリズム」を文化産業観光という側面に光を当てて発信していく。伝統的な日本酒の作り方には発酵文化という独特のものがあり、それを今、ユネスコの無形文化遺産に登録しようという活動を文化庁などと共同で行っている。文化庁の協力を得て、日本の食文化を含め日本酒の素晴らしさを世界に発信するとともに、無形文化遺産の認定にもつなげていきたい。日本酒を目的とするインバウンド客が増えることを期待している。
来年は大阪
――25年の「大阪・関西万博」を控えている大阪で来年秋にはツーリズムEXPOが開催される予定だ。これはどんなイベントになるのか。
髙橋 25年に開催される大阪・関西万博に向けたキックオフの意味を込めて開催する。このツーリズムEXPOをきっかけとして一つの大きな流れを作りたい。大阪でのツーリズムEXPOは19年の開催後、実に4年ぶりとなる。大阪、関西の関係者からの期待も高く、前回の15万人を超えるイベントにしたいとやる気も満々だ。また、東京と大阪は文化が異なり、世界に向けて日本の多面的な魅力を発信する良い機会ともなる。大阪ならではのコンテンツも数多くあるので、東京とは違った日本の魅力を楽しんでいただくこともできる。併せて、大阪は何といってもアジアのゲートウェイであり、その意味においても、大阪での開催は非常に意義がある。
清野 昨年の東京オリンピック・パラリンピックの時に外国のお客さまが来られなくなってしまったが、実はわれわれJNTOでは、海外の居住者に大阪・関西万博についてどう思うかを聞くアンケートを実施した。その結果、答えてくれた人のうちかなりの人は万博への期待が高かった。万博の他にサッカーなどの国際メガイベントもあり、それらがあっても万博の方に行きたいという。万博というのは、その時々の国や世界全体の文化や産業の最先端を見せてくれるものだから、先進国にしても途上国にしても非常に見たい、来たいという声が大きい。人間が人間である以上、新しいものは見たいということだろう。
そういうお客さまに対して、例えば、ついでに四国も回ってほしいなどと呼び掛けるチャンスだ。もう一つは、その時には行けないが、日本は食べ物がおいしいとか、空気がきれいだとか、人情味があるなどと知ってもらい、また翌年以降に日本に来たいというファンを増やすチャンスだ。
久保田 19年に大阪で開催したツーリズムEXPOは、地元の方も非常に熱心に取り組んでくれて、大成功だった。熱心にやってくれるところで開催するのだから、来年のツーリズムEXPOも必ず成功するのではないか。それがまた次の万博につながっていければいい。
万博というのは、広い知識を得られ、旅行もでき、子供たちにとっては素晴らしい思い出にもなる。そういう意味では日本全国の人に見に行ってもらえるとうれしい。統計によると、昭和45年の大阪万博には約6千万人の観客が来た。その8割程度が日本国民ということで、当時の人口からすると国民の半分近くは行っている。それだけに次回の大阪・関西万博も期待ができる。
併せて、外国人も当時以上に来てくれると思う。大阪だけでなく、また東京だけでなく、日本の地方には良いところがたくさんあるので、そこに回ってもらえるようなきっかけを作っていく準備を今からする必要がある。日本の地域を世界に知ってもらえるイベントになってほしい。
メッセージ
――開催までもう間近。最後に観光業界関係者に向けてメッセージを。
髙橋 今回、コロナという未曽有の事態に直面し、われわれは大きな打撃を受け、いまだ影響を受け続けている。コロナ禍を経てあらためて認識したのは、「旅」は人にとってはなくてはならないものでありまさに「ツーリズムは永遠に不滅だ」ということだ。旅行業全体で今一度自信を持ち、日本のツーリズムの復活、再生に向けて進んでいきたい。
最後に問題提起したいのは、観光業界でのデジタル化の遅れだ。典型的な例が、訪日旅行客が3千万人を超えたときの京都でのオーバーツーリズムの問題だ。政府目標である30年に6千万人を達成するには、デジタル化を進め旅行者の利便性向上と地域の豊富な情報やコンテンツをしっかり発信し、もっと全国に旅行者を分散する必要がある。しかしながら、現状としては観光業界は打撃を受けてデジタル化に向けた投資能力が十分にはないため、その後押しを国にしていただけるよう強くお願いしたい。
清野 京都での一極集中の話が出たが、もう一つ、観光施設などでの集中を回避する策として入場の予約制を多くの施設で採用することを考えてほしいと思う。予約制にすれば、列に並ばず、その時間に行けば良い。同時に予約料金をいただく。入場料金の千円に加え予約料金千円をいただける。混雑緩和にもなるし、収入増にもつながる。
また、「WTTC(世界ツーリズム協議会)」のデータを見ると世界平均で観光関連に従事している人は10人に1人だ。GDPでは観光業が10%を占めている。われわれ観光業は日本にとって、また世界にとって大事な仕事をしているという自信とプライドを持って、言うべきことを言っていく。その到達点が6千万人だ。あるいは、もっと増えるかもしれない。インバウンドは圧倒的に東京、大阪が多いわけだが、日本全体がインバウンドの受け皿として広くあまねく潤っていけるよう訴えたい。
久保田 国民の多くが一番やりたいのはコロナ禍で我慢した旅行だというのがどのデータでも出ている。海外の人が一番行きたい国は日本というデータもある。そのようにみんなが旅行をしたい時にツーリズムEXPOをきっかけに旅行の機運をしっかり盛り上げていきたい。
観光は必ずや今まで以上に盛んになるが、それまでの間に課題をしっかり解決する必要がある。多くの人が「また旅行に行きたい」と思ってもらえるよう地域の観光満足度を高めていく。そして世界からもお迎えをする。その準備もみんなが力を合わせて行っていくべきだ。
コロナ禍を通じて感じたのは、観光は国を豊かにする重要な産業だと人々に理解されていたのだろうかということ。観光に関わる者は、観光は重要な産業であり、地域や人々を豊かにするものだということを自らしっかり再認識し、周りにも発信していかなければならない。
旅行、観光の復活に向けツーリズムEXPOジャパンの成功を誓う3者