【シリーズ「地域から元気を 地方創生が生み出す未来」5】北海道東川町 町長 松岡市郎氏

  • 2022年12月9日

松岡市郎町長

町民の幸せ追及へさまざまな事業

25年で人口2割増、目指すは「適疎」な町

 北海道東川町は、この25年間で人口が約2割増加したという地方では希有な町だ。活性化へさまざまな取り組みを進め、積極的に人を呼び込む施策を打っているが、適度な疎「適疎」を理想としている。

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 北海道のほぼ中央に位置する東川町は人口8480人(4月30日現在)。面積247.3キロの町の東は大雪山国立公園の区域の一部で、北海道最高峰の旭岳(標高2291メートル)がそびえる。一方、西は人口約33万人を抱える北海道第2の都市で中核市の旭川市が隣接。旭川空港から車で約10分、旭川駅から同30分と交通至便な場所に位置する。

 町を語る上でいくつかのキーワードが存在する。その一つが「写真」だ。同町は1985年に「写真の町宣言」を行った。21世紀に向けて、「町民参加による、後世に残し得る文化」を模索した中で、大雪山系による優れた自然景観に恵まれていることから、「写真映りの良い町づくり」、さらには「写真映りの良い人づくり」「写真映りの良い物づくり」を目指すとともに、写真に関わるさまざまな事業を企画、実施。続く2014年は「写真文化首都宣言」も行った。

 写真にまつわるイベントとして「東川町国際写真フェスティバル」を「写真の町宣言」を行った1985年から開催。国内外の写真作家や関係者を招待し、「写真の町東川賞」の授与や、受賞作家の作品展、シンポジウム、写真作家と出会うパーティーなど、各種の催しを行っている。

 1994年からは高校生を対象とする「写真甲子園」を開催。全国から集まった高校の写真部員が同町や近隣市町の風景や地域住民を撮影。その優秀作を表彰するものだ。

 さらに同町と交流がある国や地域の高校生を呼び、写真を通じた国際交流を行う「高校生国際交流写真フェスティバル」を2015年から行っている。

 同町の写真文化の発信拠点が1989年にオープンした「東川町文化ギャラリー」。「東川町国際写真フェスティバル」をはじめ、さまざまな企画展の開催、さらには写真以外の地域の文化活動を発表する場として機能している。大規模改修、増築を経て2021年3月にリニューアルオープン。町が収蔵する文化価値の高い作品の展示や、撮影、イベントができるスタジオを新設した。

町の複合施設「せんとぴゅあ」に展示された学生による写真作品

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 東川町は全国でも珍しい、北海道では唯一の上水道がない町だ。町の全戸が地下水をくみ上げて飲用をはじめ料理や風呂などの生活用水に利用している。

 大雪山系の自然が蓄えた雪解け水が長い年月をかけて地中深くにしみ込み、同町に運ばれてくる。住民はその地下水を利用している。地中20メートルほどを掘ると、汚れのない、きれいな水に出会えるという。各家庭は住宅建設時にボーリングの費用が約50万円かかるが、その後は水をくみ上げるポンプの電気代のみで、上水道代は一切かからない。「ミネラルが豊富に、バランス良く含まれている」という東川の天然水は、豆腐やみそなど加工品の製造所や飲食店でも使われている。

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 東川町は明治の開拓以降、農業を中心に発展を遂げてきた歴史があり、中でも米づくりが盛んに行われてきた。今では北海道屈指の米どころとして確固たる地位を築いている。

 土壌は植物が堆積してできた肥沃(ひよく)な埴壌土(しょくじょうど)。また朝晩の寒暖差が大きいことや、水に恵まれていることが米づくりに適していた。かつては評価が低かった北海道の米だが、品種改良を盛んに行ったこともあり、「ここ20年で非常においしい米がとれるようになった」と同町産業振興課の菊地伸課長。地元農家とJA(JAひがしかわ)が制定した独自の厳しい生産基準「東川米信頼の証10か条」を守ってきたことも品質が向上した要因という。

 2019年は北海道のブランド米「ゆめぴりか」のおいしさを競う「ゆめぴりかコンテスト」で東川産米が最高金賞を受賞。ゆめぴりかは、日本穀物検定協会が行う米の食味ランキングでは最高ランクの「特A」を2011年から連続して取り続けている。

 ブランド化に成功した東川米は、北海道のほかの産地の米に比べて高値で取引されている。

 水と米がおいしい同町は、日本酒造りも近年新たに始めた。町が建設、民間が運営する「公設民営型酒造」を新設しようと全国の酒蔵を対象に公募を行ったところ、岐阜県中津川市の老舗酒蔵「三千櫻(みちざくら)酒造」が手を上げ、2020年に移転した。地元農家5軒が酒米づくりに着手。「東川ノ雪」「東川羽衣」という二つの地酒が誕生した。「キレが良く、透明感のある飲みやすい酒」と好評だ。

 町では町内の畑で取れたぶどうでつくるワインも2013年から製造されている。

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 東川町のもう一つの主要産業が「木工」。日本五大家具産地の一つ、旭川の家具のうち、約30%が同町で作られている。町内に約35の事業者が集結。高い技術力を駆使し、デザイン性の高い商品を製造している。

 山岳地帯に大規模な森林が形成されるなど資源に恵まれていた。また農家が農閑期に従事するなど担う人材がいたことも木工業発展の理由という。

 町のメインストリートの店先に、個性あふれるユニークな木彫りの看板が多く見られる。公共施設は町内産の机や椅子を使用。町全体が東川家具のショールームという趣だ。

 子供が誕生した家庭に東川産の子供用の椅子を贈る「君の椅子プロジェクト」や、中学校3年間で使った自席の椅子を卒業時に持ち帰る「学びの椅子プロジェクト」も推進。地元文化を幼少時から浸透させている。

 町は毎年4月14日を「椅子の日」と制定。「家具や椅子に感謝する習慣と文化を創造し、地域の家具産業の振興を図ることを誓う日」という。同日に制定したのは「良い椅子」の語呂合わせからだそう。

 「椅子の日」を制定した2021年、日本を代表する建築家、隈研吾氏との事業連携も始まった。町の中心に隈氏が代表を務める設計事務所が手掛けた木造のシェアオフィス「KAGUの家」4棟を建築。隈氏の事務所ほか、さまざまな業種の企業が入居している。

 隈氏とはこのほか、町内事業者による隈氏デザインの椅子の製作、若い家具デザイナーを対象にした国際コンペティション「隈研吾&東川町KAGUデザインコンペ」が行われている。

 今後は家具と建築をテーマにした「デザインミュージアム」の建設が予定されている。隣町の東神楽町在住の椅子研究家、織田憲嗣氏が長年かけて収集した北欧家具を中心とする貴重なコレクションも展示する予定だ。

「君の椅子プロジェクト」で贈られる町内産の椅子

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 東川町は海外との交流を積極的に進めている。2015年に創立した町立東川日本語学校は日本で唯一の公立の日本語学校だ。アジアを中心に世界から多くの留学生を受け入れ、語学に限らず地域文化の体験学習など、日本文化に触れる機会を数多く提供している。

 また町内の民間の専門学校では、日本語学科を2014年に設置。二つを合わせておよそ300人の留学生が町内に在住している。

 「留学生の町での年間消費額はおよそ10億円。その受け入れで町に10億円の経済効果が生まれたことになる。東川で学んだ人たちが東川を好きになり、世界に東川のファンがどんどん増えるという効果も大きい」と前出の菊地課長。

 町役場には世界16カ国から来た約20人の職員が在籍。語学やスポーツの指導補助、海外との連携事業、町民との交流イベントで活躍している。飲食店の多言語表記など、民間のサービス向上に資する取り組みも積極的に行っている。

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 東川町の人口は1995年に7111人。その後、緩やかに増加を続け、2020年は8437人と、51年ぶりに8400人台に回復した。
年間の出生数が50人、死亡数が100人ほど。これだけでは年間約50人の自然減が続くことになるが、例年600人ほどの転入者がコンスタントにある。500人ほどの転出者もあるが、差し引き約100人の社会増。これは自然減を上回る数字だ。

 「生まれてくる赤ちゃんは50人前後だが、今年小学校に上がった子供は80数人。これは小学校1~6年生の子供を持つ家族が転入していることを意味する。子育て世代の若い家族に人気の町となっている」と、同町税務定住課の吉原敬晴課長。今では全人口のおよそ半数が町外からの移住者だ。

 町では移住相談ツアーや、東京、札幌など大都市での移住促進イベントを定期的に開催。移住後に町内在住者と人脈をつくってもらうための町民同士の交流会も開いている。

 移住者の受け皿となる住宅については、町の景観条例「美しい東川の風景を守り育てる条例」に基づく住宅建設を推奨。町の中心部に位置する住宅地「グリーンビレッジ」が典型例で、統一感のある美しい街並みが形成されている。町では景観に配慮した住宅建設に対してさまざまな支援、補助を用意している。

 教育環境も充実。町内にある四つの小学校の一つ、東川小学校は敷地4ヘクタールの平屋の校舎に加え、サッカー場、野球場、多目的芝生広場を持つ12ヘクタールの公園、1ヘクタールの体験水田、農園、果樹園と、北海道ならではの広大な学び舎だ。校内で育てた食材を給食に利用するなど食育も推進している。

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 増加を続ける東川町の人口。ただ、「移住者が増えているのは町の移住政策が良いからではなく、町のさまざまな事業に町内外の人が魅力を感じているからだと認識している」と吉原課長。菊地課長も「私たちは町民が幸せに生活できるように、何をすればよいのかを常に考えている。それが結果的に移住につながっているのではないか」と語る。

 松岡市郎町長は「今、日本の国は過疎と過密に二極分解しているが、われわれは適度に疎がある『適疎』を目指している。集中しすぎていない、かといって寂しくもない。そういう空間をつくり、維持することが課題だ」と話す。

松岡市郎町長

 

 
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