コロナウイルスの感染拡大は、私たちの生活や仕事にさまざまな変化をもたらした。「コロナ禍」といわれるように、その多くは不安をかき立て困難や忍耐を強いることだ。一方で、リモートワークやオンラインの活用など、新しい標準やビジネスモデルも生み出した。そして今まで経験したことない状況下で、その大切さに改めて気づいたこともある。その一つが「会うことの幸せ」だろう。
“新しい生活様式”のもと私たちはお互いに距離をとることを徹底してきた。だが制約を受けるほど逆の欲求が沸き起こるものだ。ダメだと分かっていても、夢中になるとつい声が大きくなり、笑い合い、無意識のうちに相手との距離を縮めようとする。霊長類学者・人類学者でもある京都大学総長の山際壽一先生によれば、人間の五感はオンラインだけでは相手を信用しないようにできているらしい。視覚や聴覚だけでなく、触覚、味覚、嗅覚の五感を共有して、つまり会うことによって相手との信頼関係を築くのだそうだ。五感を使って楽しむ旅行や食事なども同じだと思う。
これまでにない状況下で、働く人々は戸惑いながらも「前を向かねば」と自らを励まし、一方でふと沸き起こる不安の間で揺れ続ける。「非対面」モデルへの急激な変化の中で、これまでの自信を失いそうになる。「にぎわいは取り戻せるだろうか」「培った技術はもう必要とされないのか」「宴会やパーティーはどうなるんだろう」。そんな思いを抱いている人もいるだろう。その中にあって「会うことの幸せ」を求める、変わらぬ人の本質はこの先の灯だ。
事態はいつか収束から終息へ向かうだろう。コロナ後、この体験を経た人々の価値観や考え方はこれまでと同じではないはずだ。今までの当たり前が一変する現実を身近に感じ、改めて「会うことの幸せ」をかみしめるに違いない。集い、分かち合い、時間や空間を共有する術は変わるかもしれないが、これも進展と捉え工夫を重ねて歩みを進めたい。
(一般社団法人日本宿泊産業マネジメント技能協会会員 株式会社ホスピタリティリソーセスジャパン代表取締役 川村敦子)