【ちょん髷理事長モノ申す 地方再生・創生論 95】前例主義をやめ、新たな発想を 日体大理事長 松浪健四郎

  • 2018年11月8日

 ニューヨークのロングアイランド。マンハッタンから地下鉄でアクアダクト競馬場へ行く。すごい人気で入り切れないほどの観客であふれていた。長蛇の列の馬券売り場、異常なほどの人気に驚く。雰囲気が異なるはず、初の女性騎手のデビュー戦なのだ。大成功といえた。

 早朝、ファンは新聞売り場で「モーニング・テレグラフ」というぶ厚い予想紙を買う。美人の女性騎手は1番人気、ついつい私も買った。祝儀なのか、その女性騎手はデビュー戦を勝利で飾った。米国の競馬には「ウィン」という1着だけを予想する馬券がある。

 これを買い続けたけれど大失敗、女性騎手の活躍は一過性で一獲千金とはならなかった。だが、女性初の騎手デビューはアクアダクト競馬場のカンフル剤になり、活性化をもたらせた。騎手を用いた成功例ではあろうか。

 高知競馬は、県のお荷物で赤字に頭を抱えていた。が、「ハルウララ」という、あまりにも弱くて連敗記録を更新していた最弱馬を大々的に宣伝することによって、多くの観客を集めるのに成功したのである。まさに逆転の発想で新鮮味があり、この奇手に前例がなかった。火を付けたのは型破りの県庁職員だったという。相当な心理学者、大衆の判官贔屓(びいき)の利用であったと思われる。

 その県庁職員自身が希望して経営に苦しむ競馬場へ出向したというからこの役人をたたえねばならない。奇策によってお荷物だった競馬場を救うアイデア、大きなカンフル剤となったのだ。で、私はアクアダクト競馬場を想起し、ギャンブラーの心理に思いを馳(は)せた。

 全国でみられた自治体の第三セクターの事業、成功を収めている事業例が多くないのは、おそらく役人仕事に徹しているからであろう。役人仕事は親方日の丸、前例主義で奇策や逆転の発想を好まない。私も外務省と文部科学省で勤めた経験を持つが、すべからく前例主義、個性的な人間なら息が詰まる職場である。

 前例主義を廃し、新しい施策を導入するためには、首長や責任者の強いリーダーシップが求められるばかりか、強烈な個性がモノをいう。失敗を恐れない熱血職員を部下にどれだけ持つことができるかもカギとなろう。

 現行の職員の採用試験のあり方を改める必要がある。尖った面白い人材を全国から集める工夫も大切である。外資系の優良企業は、外から1本釣りのスカウト、中途採用を企業文化にしている。新卒者の採用にはリスクが高いと読み、高給で入社させるのだ。

 昨年の「ふるさと納税」の寄付額のトップは、大阪府泉佐野市であった。実に135億3300万円を集めた。市長の千代松大耕氏は若い。同志社大のアメリカン・フットボール部出身で、爽やかな印象を与えるが芯は強く、周囲の声に迎合しない。私は市長をよく知るだけに、アイデアと行動力にいつも舌を巻かされている。

 全国紙1面にふるさと納税の広告を打ち、返礼品の数を1千品以上準備した。あたかもデパートでの買い物、それが納税というのだから、一種の奇策といえる。納税者心理を読み、この工夫がトップの座に踊り出た要因であろう。泉佐野市は、北海道夕張市に次ぐ大赤字の市であったのに、千代松市長は、アイデアに次ぐアイデア、奇策に次ぐ奇策で、あっという間に輝く優良市へと蘇生させた。

 これらの手腕に拍手を送りたい。自治体も前例主義をやめて民間に負けない発想で運営せねば、生き残れない時代だ。危機感のなさが、ヌルマ湯に浸かる前例主義を踏襲するに違いない。泉佐野市に学ぶべし、だ。

 山形県米沢市のふるさと納税の返礼品はコンピューターであった。市内で生産される品だけに、高価だが問題がないかに映ったが、総務省から通知を受けて品を替えた。すると納税額は下降線の一途。市長は、「通知には強制力はないが、国から言われるとやめざるを得なかった」と私に語った。

 市の財政に気を配るか、国のニラミに脅えるか、トップの姿勢と気概は重大である。

(日体大理事長、松浪健四郎)

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