【ちょん髷理事長モノ申す 地方再生・創生論 63】日本風肉料理の専門店街がほしい 松波健四郎

  • 2018年3月9日

 大阪の父親が上京してくると、決まって銀座の有名なステーキハウス・スエヒロで腹一杯、食べさせてくれた。レスラーだった私は、ステーキこそ最大の好物。学生寮の食事では、せいぜい肉ジャガ止まり、牛肉に飢えていた。

 私の祖父は馬喰であった。門は馬に跨がってもくぐれるほど高く、門の左右は馬小屋と牛小屋が並んでいた。祖父の代で馬喰が終わったので、小屋は私たちの子どもの遊び場となる。兵庫県から但馬牛の子を買い、泉州地方の大きな牛を下取りして小牛を売る。大きな牛は三重県の松阪近辺へ運んで売る商売だったらしい。

 小牛はよく働くが、大きくなると動きが鈍くなる。松阪地方の田は沼地のようだったゆえ、大きい牛の方が好都合で、やがて牛肉の産地となったという説もある。但馬牛は黒毛和牛、牛肉としての最高品種。兵庫県産であるため、この牛肉が「神戸牛」として名を馳せたと私たちは信じている。

 ニューヨークの日本レストランのメニューにも、わざわざKOBEが入っていたり、店名がKOBEだったりするほど、米国人は昔から「神戸牛」ブランドを好んできた。ところが、「神戸牛」の発祥は神戸にあらず、近江の「近江牛」こそが「神戸牛」になったと耳にした。大津市唐橋町の「松喜屋」という明治初期からのステーキハウスに行くと、「神戸牛」の由来について教えられる。

 「明治15年、神戸港から横浜港へ日本郵船の船で大量輸送を行い、近江牛の販路は拡大されました。ところが、東京に入荷する肉牛が『神戸牛』の名称で呼ばれることになったのは皮肉なことでありました」と、説明書が語る。本家は、神戸ではなく近江だったのである。

 が、近江牛も黒毛和牛、食肉としての歴史は古く、低温熟成させる技術が天下一品のステーキを産んだらしい。明治、大正、昭和の三代にわたって宮内庁に近江牛を納めていた「松喜屋」でステーキを食べたが、さすがに上品で美味であった。

 米国、オーストラリア等から子牛が輸入されている。3カ月間、日本で飼育すると国産牛となる。いかなる環境でいかに飼育するか、それによって肉質が異なり価格を左右する。全国各地でブランド名をつけて、あの手この手で売り込むが、日本産の牛肉は柔らかくて旨い。

 海部俊樹元総理と2人でテキサス州のブッシュ元大統領(初代)を訪ねたことがある。息子の大統領に「イラク攻撃を中止させるように進言すべし」との陳情であった。元大統領は、ヒューストンの有名なステーキハウスに私たちを招待して下さった。

 Tボーンステーキ、わらじよりも大きなステーキだ。歯ごたえがあり、味もボチボチ。海部先生も牛肉好き、きれいにたいらげられた。テキサス州は肉牛の大産地、Tボーンステーキが名物だ。ま、米国らしい感じがした。

 明治16年、銀座に「松喜屋」が、すき焼き店を開店して以来、日本人はすき焼きを上等の料理としてきた。もともと「鋤(すき)焼き」と書き、農具の鋤の上で肉を焼いたと母親に教えられたが、肉をすき身(薄切り)にして焼いたからだともいう。松阪の「和田金」のすき焼きは、わが家の調理方法と異なっていた。流派があるのがおもしろい。

 テール・シチューのおいしい店も各地にある。日体大の近所に「かっぱ」という煮込み一品の有名な店もある。どの部位の肉か知らぬが旨い。調理方法によって牛肉が喜ばれるゆえ、産地のブランド化もいいが、料理研究も大切であろう。地域の特徴ある牛肉料理の専門店街を作ってほしいものだ。

 大阪の鶴橋のごとく焼き肉店が集中するのもいいが、日本風の肉料理屋街もあっていい。「しゃぶしゃぶ」「すき焼き」「焼き肉」「ステーキ」、それしか考えられないのだろうか。

(日体大理事長、松浪健四郎)

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