
国土交通省関東運輸局(横浜市)は4日、観光施策「江戸街道プロジェクト」に関するシンポジウムを東京都内で開催し、同時にオンライン配信した。有識者を交え、江戸や街道に関する講演やパネルディスカッションを行い、同プロジェクトの可能性や今後の方針などを参加者に向け発信した。
同プロジェクトは、江戸時代に日本橋を起点に整備された五街道に着目し、食や文化、歴史的な観光資源を江戸街道というテーマでブランディングしていく観光施策。5月20日に有識者会議が開かれ、具体的な取り組みや方針が議論、検討されていた。
今回のシンポジウムの基調講演では、温泉エッセイストの山崎まゆみ氏と実業家のルース・マリー・ジャーマン氏が登壇。山崎氏は「温泉が文化になった江戸時代~街道が果たした役割」と題し、徳川家康以来江戸幕府の歴代将軍が熱海の湯を「御汲湯(おくみゆ)」として江戸城に運ばせた出来事を紹介した。
山崎氏は、温泉の湯が街道を使って運ばれる姿に民衆が注目し、それにより江戸時代に温泉の認知度が向上し、温泉が文化として土着化していく歴史を振り返った。
ジャーマン氏は「インバウンドから見た江戸街道」と題し、同プロジェクトに期待する事柄を発表。「日本は2019年まではインバウンドに対して情報発信過多だったが、今後は『どの層に向けた』のような、ターゲットをより明確にした上での情報発信が基本になる」と述べSNSでの情報発信例を取り上げ、外国人を(1)初来日の観光客(2)2、3年の滞在歴があり、ひらがななら読める(3)長期滞在で、日本語の読み書きができる―の各レベルで大別し、「最初はレベル(3)と想定して普通に日本語で対応し、それが難しかったら(2)へ、のように、相手の反応を見ながら対応してほしい」と呼び掛けた。
事例発表では箱根八里街道観光推進協議会副代表幹事の古河方子氏が箱根八里を観光街道として周知、誘客していくまでの取り組みを、足立成和信用金庫理事長の土屋武司氏が御朱印帳から着想を得た御宿場帳について、関係者からの協力のもと同取り組みを実施するまでの経緯をそれぞれ解説した。
パネルディスカッションでは「街道観光による地域振興」をテーマに、筑波大学名誉教授・石田東生氏のコーディネートのもと、土屋氏、リクルートじゃらんリサーチセンターグループマネージャー・高橋佑司氏、全国街道交流会議代表理事・藤本貴也氏、三菱総合研究所主席研究員・宮崎俊哉氏、関東運輸局観光部長・岡村清二氏が同プロジェクトについて意見を交わした。
結びに、日本観光振興協会総合研究所顧問の丁野朗氏が「江戸街道内の各エリアが持つストーリーをしっかりブラッシュアップし、そのトータルを江戸街道として発信できれば良いと思う」と今後の方向性について言及し、石田氏は「地域に根付いた多様なものこそ、これからの重要な価値なのではないか。『主役は地域の皆さん』との共通理解のもと、さまざまな仕掛けや協同の進め方を考え、共有していけたら良いのではないか」と述べた。