【道標 経営のヒント96】心を繋いでゆく旅館 佐々山茂


 代を変えて継がれてゆく旅館。安全性はもちろんのこと、建物の価値を維持することは大切だ。5千平方メートルを超える建物の耐震診断が2013年に義務付けられた。それもあり、当社では今までに7軒の旅館で診断をして、4軒が補強工事まで完了し、進行中が3軒ある。

 耐震補強は大きな費用が掛かり、売り上げに直接結びつかない投資で、なかなか進まない。

 今までに補強した全ての物件で、現状復旧までの費用は補助金限度額の約5万円(1平方メートル以内)で納まっているし、そのうち条件の良い建物は1万円(同)程度で済んでいる。最近旅館を新築すると50万円(同)は掛かる時代だから、耐震補強は1割程度で済むことになる。

 昨年改修が終わった和歌山の旅館は平面がコの字型で海岸の崖に立っていて、条件が悪く補強方法に行き詰まったのだが、4階の岩盤に力を伝えることで今までの4階を1階として解決した。

 また、現在工事中の物件では1階の柱の主筋が露出していたり、ジャンカが多く見つかるなど当初の施工が悪く、補修も同時に行っている。1965年前後の建物はコンクリートの施工が悪いことが多い。

 鉄筋コンクリートの建物寿命は60年といわれるが、サンプルを取って検査すると概して状態は良い。「腕のいい構造設計者にかかると、コンクリート強度が基準以上あれば耐震補強できない建物はない」と大学の大先輩の構造設計者H氏は言う。旧耐震の時代にそろばんと計算尺で構造設計を行ってきたので図面と現場を見ると勘が働くようだ。腕利きの構造設計者と意匠設計者が良いパートナーシップで仕事を進めることが大切だ。

 旅館も建築のストックを生かす時代。60年代の高度成長期からバブル期までの約40年間にその多くの建物が建てられた。

 82年までの約20年間が旧耐震とされ、おそらく現在の旅館の70%は旧耐震だろう。建物も高齢化すれば成人病検診を受けるように診断を受け、愛情をもって補強をすれば元気に使うことができる。

 増築をする時には、5千平方メートル以下でも耐震が必要になる。インテリアの改修を行うときに同時に耐震補強を行うと、仮設、解体費、復旧費が節約でき、思いのほか安上がりになる。

 その時に特に大切なのは構造計算書、構造図と確認通知書などの建物の成り立ちを証明する書類だ。代を継ぐ時には在処をしっかりと確認したい。宿泊業は装置産業でもあり、建物価値を大切に維持しながら経営を継続しよう。

 
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