【道標 経営のヒント93】未来食堂に学ぶ 福島規子


 未来食堂(東京・神田)には「あつらえ」と「まかない」というユニークな仕掛けがある。

 未来食堂の店内はロの字型のカウンターで、席数は12席。経営者兼調理人の小林せかいさんがカウンターの向こう側で料理を作る。メニューは具沢山スープとご飯で500円。おかずは7種類で各100円とかなりリーズナブルだ。

 また、客は店内にある食材の中から一つもしくは二つの材料を選び、その日の気分や体調にあわせて好みの料理を作ってもらうことができる。いわゆるあつらえ料理だ。追加料金は400円。

 メニューの豊富な品ぞろえによる「選べる贅沢」ではなく、自分のことを考えてあつらえてくれる「リアルな特別感」が現代人の心をグイッとつかむのだろう。

 一方、「まかない」システムもユニークだ。

 客が食事後に50分間店の手伝いをすると、「ただめし券」が1枚もらえる。このただめし券は自分で使ってもいいし、お腹を空かせてやってくる誰かのために入り口に貼っておいても構わない。

 未来食堂のホームページ(HP)にはこんな一節があった。

 「入り口壁に、ただめし券を貼っています。誰でも使えます。困ったときは使って下さい。未来食堂には50分のお手伝いで一食もらえる『まかない』制度があります。ただめし券は、まかないをした誰かが、自分が食べる代わりに置いていった一食です」

 ただめし券の表面にはまかないをした人が「まかないをした日時、時間枠」を書き、裏面にはただめしを食べた人が「使った日付」を書く。名前やメッセージは任意だ。

 ここまでの状況から、主宰する小林さんはさぞかし世話好きのおばちゃんなのだろうと想像していたのだが、実際はそうではなかった。某テレビ番組での小林さんの発言は目からうろこで、納得すること然りだった。

 小林さんはカウンターに客がいても必要以上に話しかけたり、気安く名前を聞いたりはしないという。客が食事をしているときはカウンターの中で本を読みながら客が食事を終えるのを待つ。「一人で食事をしに来るのだから人恋しいのではないか」と勝手に忖度(そんたく)して話しかけたりすることもない。

 「名前も聞かれない」くらいのほうが客は気兼ねなく入店できるというのが小林さんの持論だ。コンビニも然り。店員と客の間に、ある一定の距離感があるからこそ客はすっぴんで近所のコンビニに気兼ねなく出かけられるのだ。

 宿には、頻繁に客の名前を呼び掛けるウエットなサービスをよしとする傾向があるが、必ずしもそれがすべてではないことを未来食堂は教えてくれた。

 
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