【観光業界人インタビュー・DMO成功への秘訣5】首都大学東京教授・日観振総調査研究所所長 清水哲夫氏


観光客数・消費額の把握を データの活用で解を導く

 ──ビッグデータをいかに捉えるべきか。

 「私は土木工学の出身で、人のパターンを分析して、どこにどんな交通インフラが必要か、どう作るべきかなど、経済性や利便性などの視点に基づいて研究してきた。ビッグデータは、さまざまなデータの集積を表すもの。観光分野では、人の流れを知り、行動パターンを予測することなどに活用できる。国や自治体が取得する統計データを含めさまざまなデータがあるので、まずはどんなデータがあるかを知り、どうデータを活用するかを理解してほしい。今は、ビッグデータという言葉が一人歩きしている。ビッグデータは何でも解を提供してくれるイメージだろうが、何をしたいかが明確でないと何も出てこない。『ビッグデータにはこういう種類や分析がある』とは言えるが、そこから何が分かり得るかはケースバイケース。さらに、現在ストックされているデータから面白い知見を得られるだろうが、そもそも発生回数の少ない観光行動では、データの絶対数が足りていないのが現状だ」

 ──DMOにデータが必要な訳は。

 「KGI(重要目標達成指標)やKPI(主要業績評価指標)を通じて、施策の効果を検証するために必要だ。地方活性化を進める組織の運営費は、補助金を活用して進めているところがほとんどで、納税者への説明責任がある。そのためにも、自分たちで現状の客観的データで理解し検証しなければならない。『数値目標を設定してみたけど、正直どう取り扱うのか分からない』『そもそも目標設定値が妥当か不安だ』という組織も多いだろう。目標を達成するためにどれだけ頑張ったという趣旨の指標も多いが、スタッフの打ち合わせや会議の回数が増えれば観光客が自動的に来ることにはならない。いずれにせよ、事前にしっかりと設定すべき指標を検討してほしい」

 ──DMOに必要なデータは。

 「極論を言えば必要なデータは二つに絞られる。一つは消費額、もう一つは人数。何人観光客が来て、どれだけ金を落とすかがKGIを計る上で必要だ。意欲があれば自分たちでも取ることができる。余力がない場合でも、国や県の統計を参考にできる。ビッグデータから観光消費を把握するのは現状では難しい。カード会社に依頼すれば簡単に提供してもらえるものではない。ただ、近年流通している位置情報のビッグデータとヒアリング調査を組み合わせることで対応できるかもしれない。DMOを見渡すと、地域の統一ビジョンに基づいてターゲット層を絞り、観光客誘致のシナリオを作っているところが多い。極めてまっとうに見えるが、その地域に合ったターゲットなのかなど、設定の根拠が示されていないことがある。本来DMOに求められている、観光客数や消費額をどれだけ増やすか、より大きなビジョンを示さなければならない。そして、KGI指標の達成度合いが評価基準となる。成果を数値で証明できれば、DMOが成功したと言えるのではないか」

 ──ビッグデータをどんな観光の課題に使えるか。

 「地方では2次交通の不足が問題だ。公共交通で観光地に行った後に現地で十分な移動手段がなくて苦労する経験は誰もがするだろう。現在は、ワイファイを通じて個人の行動記録をさらに詳細に取ることができるようになった。観光地にワイファイスポットを重点的に設置することで、利用者の通った経路が分かったりもする。広域に設置展開すれば、観光地間の周遊行動までもが分かってしまう。人の行動を知る上で有効なデータ取得方法の一つであり、そこからは、どの経路にどんな交通サービスをどれだけ提供すべきかを導き出せるだろう」

 ──今後、必要となるビッグデータは。

 「訪日外国人のデータが足りない。訪日外国人の地方都市間の移動実態を知ろうとして、観光庁が2年前に実施した実証実験(5万5千人規模)の移動データを入手して、例えば熊本—大分間の外国人の移動を抽出してみたが、サンプルは10にも満たなかった。他の地方都市間でも、同様にほとんど観測されていないだろう。これでは、どんな移動の課題を抱えているのかさえ分析できず、彼らに必要な交通サービスを提案することもできない」

 ──地域に求めることは。

 「たくさんあるが、交通の対応が重要になってくる気がしている。各地で外国人観光客がこれからますます増えてくるが、彼らの時空間上の移動パターンをきちんと想定できないと、地元住民の移動利便性を落とすことにつながりかねない。また、外国人がSNSなどで観光地の良い評判を広め、リピーターになってもらうためにも、2次交通による移動利便性の向上は急務だ」

 ──今後のDMOへの支援活動は。

 「日観振と大学が協力して観光データに関する教育カリキュラムを作り、DMO候補法人に勉強してもらう場を設けていく。例えば、東京都多摩地域で、私の所属する首都大学東京と多摩信用金庫が協力し、自治体職員にデータに基づく地方創生施策事業化講座を開講している。自治体職員は人口、交通、観光、都市、産業など単独の領域のデータは多少分かっていても、領域外のことはあまり知らないようだ。あまたあるデータの活用方法を知ることで、無駄な調査業務の発注を防止することもできるだろう。データ活用について悩んでいたらすぐに相談してほしい」

日観振は、約8千万泊の旅行、宿泊関連の実績データと現在から6カ月先までの予約状況などをウェブサイト「観光予報プラットフォーム」で公開

【しみず・てつお】
首都大学東京大学院都市環境科学研究科観光科学域教授、日本観光振興協会総合調査研究所所長兼務。専門は交通学、観光政策、観光計画。

【聞き手・長木利通】

 

 
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