【竹内美樹の口福のおすそわけ179】うどん愛が生んだ名産品 竹内美樹


 前号に続き、コンビニよりうどん店の数が多いと言われる、「うどん県」ならではのエピソードを、もう少しご紹介したい。

 うどんの消費量全国1位の香川県、原料となる小麦粉の使用量もダントツの1位である。温暖で雨が少なく日照時間の長い同県は、昔から良質な小麦の生産地だったが、昭和30年代後半の不作以降県内生産が激減。日本向けに開発され、うどんづくりに適したオーストラリア産のASW(オーストラリア・スタンダード・ホワイト)に取って代わられた。

 農林水産省では、食料自給率アップを図る例として、国産小麦100%使用のうどんを一人が月にプラス二玉(約197グラム)食べると、1%の向上が見込めるとしている。確かに一般的なうどん店で提供される天麩羅うどんを想像してみると、天麩羅の海老はアジア産、衣の小麦は米国産、揚げる菜種油はカナダ産、うどん粉は豪州産と、素材のほとんどが輸入品ということになる。果たしてこのままで良いのだろうか?と筆者ですら感じる。うどん愛に溢れた香川県民が、昔のように地元の小麦で作ったうどんを熱望するようになったのは、至極当然だ。

 そこで、香川県農業試験場が1991年にうどん用小麦品種の開発に着手、9年を経て誕生したのが「さぬきの夢2000」である。やっと県産小麦から風味豊かなうどんが出来上がったものの、タンパク質含有量が少なくグルテンが生成されがたいため、生地がまとまりづらく、打ち手の技量によっては扱いが難しかった。

 同試験場はさらにこの点の克服に取り組み、栽培適性や製粉・製麺適性の検証の他、「1000人試食アンケート大会」など、延べ2千人に及ぶ消費者食味調査を実施。その結果、後継に決まった品種を「さぬきの夢2009」として登録した。多くの県民のうどん愛が讃岐うどんのための新たな県産小麦を生んだのだ。

 うどんのコシとは、パスタのアルデンテと違って硬いだけでなく、軟らかいけれど噛み切るのに力がいるくらいの弾力があるという、相反する性質を兼ね備えた食感だ。それを見事に実現し、深い味わいと小麦の甘い香りが素晴らしい。

 とは言え、まだまだ使用量はASWに遠く及ばない。だが、前回ご紹介した「かなくま餅」の秋山史郎氏のような伝道師の尽力で「さぬきの夢」の評価も上がり、ブランド化に成功。知名度も高まり、名産品としてすっかり定着した。そんな同氏のもとには、全国各地から視察に訪れる人も多い。地元の小麦やその製品を町おこしの資源にしている地域がたくさんあるのだ。

 讃岐うどん店巡りがブームとなり、人気店は観光地化して休日には行列ができる昨今だが、ブームが一過性に終わらないのは、うどんそのものが本当においしいからだ。なんたって、生醤油だけで勝負できるのだ。恐るべし、讃岐うどん! 美味なうどんをトコトン追求し続ける、うどん愛の賜物である。また食べに行かなくちゃ!

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

 
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