【竹内美樹の口福のおすそわけ172】蔵王のジンギスカン 竹内美樹


 世界的にも希少な樹氷林や、日本最大面積を誇るスキー場のある、山形県蔵王温泉。強酸性でお肌ツルツルになる泉質が好きで、たびたびここを訪れる筆者は、温泉街でジンギスカンをガッツリ食べて、温泉にゆっくり浸かるというパターンを楽しんでいる。

 え? なぜ蔵王でジンギスカンと思う方もおられるだろう。ジンギスカンと言えば、北海道のおハコだ。農林水産省選定の「農山漁村の郷土料理百選」でも、北海道を代表する料理の一つとして選ばれている。

 確かに、羊の飼育数ダントツ1位の北海道では羊肉を食す機会が多いが、ジンギスカンに限って言えば、「ジンギスカン街道」のある長野市信州新町や、羊肉の消費量で北海道と一、二を争う岩手県遠野市、そしてこの蔵王温泉も、ジンギスカンが名物料理なのだ。特に蔵王温泉は、あの独特な形状のジンギスカン鍋で食すスタイルの発祥地とも言われている。

 そもそもジンギスカンって、モンゴルの英雄チンギス・ハンの名が由来とされるように、彼の地の遊牧民の料理というイメージ。だが、実は日本で生まれた料理なのだそうだ。

 筆者がよくうかがう蔵王温泉の店「ろばた」によると、1915年頃、蔵王住民だった日本緬羊協会会長が、モンゴル視察の際、兜で羊肉を調理しているのを目撃したことに端を発するらしい。その後、わが国では国策として、軍需羊毛自給のため、「緬羊百万頭計画」を展開。国を挙げて羊の飼育に取り組んだわけだが、当然毛を刈り取った後の羊をどう活用するかが問題となる。当時の日本ではあまり羊肉を食用にする習慣がなかった上、廃羊は高齢で食肉としては味にクセがあるため、濃い味付けの調理法が必要となった。

 そうした背景と、山形に古くから伝わる伝統工芸品「山形鋳物」が結び付き、1947年ごろ山形で初めて鉄兜のような形の鍋が完成したのだそうだ。羊肉をドーム型のてっぺんに置き、その脂が流れ落ちて下に敷いてある野菜にかかるという、画期的な代物だ。

 ジンギスカンには、肉をタレに漬け込むタイプと、生肉を焼いてタレに付けて食すタイプがある。蔵王温泉は後者で、「ろばた」では毎年11月に1年分のタレを仕込み、半年以上熟成させてから提供している。頭部が黒く、肉の旨味が濃いサフォーク種の、永久歯が生えていない生後1年未満のラム肉を使用。より成長したマトンに比べ、ずっと軟らかく臭みもない。厚切りの肉を焼き、生ニンニクのパンチとすりおろしリンゴの甘味が程よく調和した特製ダレに付けて食せば、あぁ口福!

 かつてBSE問題で牛肉の輸入がストップした際、にわかにブームとなった羊肉。ブームは終息したが、コレステロールを減らす不飽和脂肪酸や、脂肪を燃焼させるカルチニンが多く含まれるというヘルシーさが、改めて注目されている。

 羊肉に偏見を持っているアナタ、ぜひ今一度試されることをお勧めする。

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

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