【竹内美樹の口福のおすそわけ167】京の白味噌 竹内美樹


 鴨川に面し、夏には川床を設える京都の料亭「ちもと」。創業享保三年、約300年の伝統を誇る同店はちょっぴり敷居が高いが、姉妹店「彩席ちもと」はカウンター割烹なので、本店の味を受け継いだ本格京料理を気軽に楽しめる。

 全てのランチコースで提供される、茶碗蒸しとスフレが融合した「玉子宝楽」という名物料理が人気だ。ふわとろな食感と出汁のおいしさがたまらない玉子宝楽は確かに魅力的だが、それだけではない。一つ一つ丁寧に調理された食材を華やかに盛り込んだ前菜や、工夫を凝らした蒸し物など、京料理ならではの美しさとおいしさが存分に堪能できる。

 中でも筆者が楽しみにしているのが椀盛だ。季節感の演出や出汁の味など、料理人の腕の見せ所となる椀盛は、日本料理のハイライト。先日伺った際は、鰤と大根の白味噌仕立てであった。お出汁のあん梅も絶妙で、ちょこんと添えられた辛子がアクセントとなり、まさに絶品。実は甘い白味噌が苦手な筆者だが、この店の物は別格だ。熱々の汁を口に運ぶと、あぁ、京都に来たんだなぁとしみじみ感じる。

 そう、白味噌は京都で生まれたものである。かつて貴重だった米麹をたっぷり使った、その雅やかな味が当時の王朝貴族に好まれ、やがて茶道の普及と共に、茶事の懐石料理に欠かせない食材として全国に広まったとされる。

 江戸に遷都され京都を西の都「西京」と呼ぶようになったため、この味噌も「西京味噌」と称されるようになった。

 穀物を長期保存の目的で塩蔵して生まれた味噌は、塩分が強い。通常12%程度の塩分量だが、白味噌はたった5%程度で、甘くこっくりとした味わい。原材料は、米と大豆と塩だけ。熟成期間が短く、ごまかしがきかないから、良質な原料と高い醸造技術が求められる。

 そんな西京味噌を名乗るには、厳格な基準が定められているそうだ。

 西京味噌とは、京都府味噌工業協同組合に所属する企業が、同組合の認定する原料を使用し、京都府内で生産し、同組合の品質認定を受けた低塩甘口の白味噌で、同組合の品質審査委員会で認められたものに限られている。さらに、「京都府内で創業50年以上、もしくは味噌技能士1級以上の技術者が在職している」「全国味噌協同組合連合会主催の鑑評会で表彰されている、またはそれと同等の製造技術を有している」といういずれかに該当する必要があるのだ。

 歴史と卓越した技術が育んで来た西京味噌。だからこそ、お正月のお雑煮などハレの食事だけでなく、酢味噌や田楽、西京漬けなど、幅広い利用方法で人々に愛され続けているのだ。

 上品で華やかな様を指す、「はんなり」という京言葉がピッタリな京の白味噌。そのおいしさを最大限に引き出す出汁とのハーモニーは、口福の一語に尽きる。「彩席ちもと」の椀盛の優しい味に、日本の伝統食って素晴らしい!と思う筆者であった。

 ※宿泊料飲施設ジャーナリスト。数多くの取材経験を生かし、旅館・ホテル、レストランのプロデュースやメニュー開発、ホスピタリティ研修なども手掛ける。

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