【私の視点 観光羅針盤 116】人育ては国の礎 石森秀三


 9月11日に首相官邸で第1回目の「人生100年時代構想会議」が開催された。この構想会議は安倍政権の新しい重要課題である「人づくり革命」の推進組織である。政府は人づくり革命を推進しようとしているが、本当に必要なのは地域に根ざした「人育て」であろう。

 私は8月に夏期休暇を利用して、北海道の音威子府村を訪れた。この村は「北海道で一番小さい村」として有名で、現在の人口は743人となっている。最盛期には5千人の人口があった。天塩川水運と鉄道の結節点として重要な役割を果たし、「鉄道のまち」として栄えた。

 当時は人口の約3割が国鉄関係者であったが、鉄道路線の廃線に伴って斜陽化し、人口が減少した。しかしこの村には村立の「北海道おといねっぷ美術工芸高校」が存在する。この高校は名寄農高の分校だったが廃校の危機の中で村立高校として存続を図り、道内初の工芸科高校として再スタートした。

 その結果、現在では本州からの生徒も数多く在籍するユニークな高校として名声を高めている。アイヌの彫刻家、砂澤ビッキ氏が1978年から音威子府村に移住し、アトリエを置き、活動していることも影響しているようだ。

 北海道の三笠市はかつて道内初の坑内堀炭鉱(幌内炭鉱、1879年開鉱)、初の鉄道敷設(手宮―幌内)、初の電話開設などで栄えた町であったが、1989年に炭鉱が閉山したことで斜陽化した。現在では、三笠ジオパーク(さあ行こう!1億年時間旅行へ)や石炭地下ガス化事業などで未来創造を図っている。

 また三笠市は人育てでも大いに頑張っている。道立三笠高校は2012年に廃止され、市立高校に転換した。その際に従来の普通科ではなく、道内唯一の食物調理単科高校として再スタートし、調理コースと製菓コースを設置した。幸い、生徒たちはさまざまなコンテストでも評価され、食物調理や製菓の実績を重ねている。

 そのような生徒たちの頑張りを評価して、三笠市は政府に働きかけて「高校生レストラン」の実現を図り、来年夏には開業の見通しになった。調理部門と製菓部門の両輪で、高校生シェフや高校生パティシェの活躍の場がつくられるのは素晴らしいことだ。

 北海道は食料自給率(カロリーベース)が221%で日本一の恵まれた大地であり、豊かな食材を活用して若者の才能を最大限に発揮できるのは願ってもないことだ。

 観光立国実現のためにインバウンド増加に血道を上げることは理解できるが、少子高齢化に伴って地域衰退が進む中で、各地域に踏みとどまって頑張る若者を着実に育てていくことこそが何より大切だ。まさに「人育て」こそが国の礎であろう。

 (北海道大学観光学高等研究センター特別招聘教授)

 
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