【私の視点 観光羅針盤85】頼みの観光は変われるか? 安田彰


 正月も半ば、新年の感も薄らいだ。年々歳々「改まる」というケジメが乏しくなる。相も変わらぬ忙しい日常――これでは意を新たにする決意も情熱も冷めようというもの。だが、この傾向は日本だけではないようだ。

 アメリカもイギリスも自国ファースト、欧州も難民お断り。北方領土や慰安婦問題も手つかずの先送り。シリアの戦火は国連すら治めようとはしない。トランプ頼みの期待感だけで株価は根拠もなく上がっていく。人間の英知はどんどん低下し、今や将棋や囲碁までもがAI頼みだ。

 かくして、不透明な現実だけが年が改まっても確実に進んでいく。

 こうした傾向を指す新語に「POST―TRUTH」(真実は二の次)というのがあるそうだ。真実・真理より感情優先である。

 今やスマートフォン(スマホ)万能、新聞やテレビの報道よりSNSを重視、結果、インチキニュースが大変な数出回ったという。取るに足らない些事のサイトがよく感情論に走り、炎上する。

 そんな日本、世の趨勢(すうせい)はどうも観光頼みに傾きつつあるようだ。どこもかしこも、政府予算もインバウンド一色である。冷静に見ると2030年訪日外客目標が6千万人と、空水路のみの入国数では実質世界一になる。

 それでも消費額は今の2倍半の8兆円。片や日本人の旅行消費額はほとんど伸びず、22兆円である。これが事実・真実であるが、それは「二の次」、頼みのインバウンドへ傾斜するという思惑の方が優先する。

 思い起こすと「ようこそジャパン」キャンペーンが始まった時、合言葉は「住んでよし、訪れてよしのまちおこし」ではなかったか。急速な少子高齢化と大都市一極集中=全国的過疎化が進んでいる日本。だからこそ住む人がいい町だと誇れる町にしなければ、訪れる人はいないし、来ても二度とは訪れてくれない。

 国内旅行消費が伸びないのは景気低迷にもよるが、それ以上に全国的な価格戦争が常態化しているからであろう。その発想はマス消費の時代と変わらず、「安くなければ客は来ない」という思い込みだ。入込客を増やすのが難しければ客単価を上げ、売上額を増やすしかあるまい。狙い目の客層の国籍は問わない。余裕ある富裕層がターゲットだ。

 多くの人が量より質といい、日本の持てる観光資源の豊かさを指摘する。しかし、当事者の意識は旧態依然。業種を問わず町ぐるみで持てる資産を検証し、磨き上げてブランド化を目指そうとする自治体は多くない。

 食・祭・匠の多様性と交流体験の重視、「ないものねだり」から「あるもの探し」への転換、中長期展望に立つ根気のよい情報発信など、町ぐるみで「二の次」を改めない限り、日本中がゆるキャラとB級グルメでまちおこしという状態になりかねない。

(亜細亜大学教授)

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