【私の視点 観光羅針盤112】DMOありきの危うさ 清水慎一


 DMO形成・確立を目指して、日本各地で活発な議論が展開されている。観光庁によれば、候補法人に登録申請したところが157に達したという。今後申請するところを入れると優に200を超える地域がDMOに取り組んでいる。しかし、このような地域からは多くの悩みや疑問が筆者に寄せられる。「DMOは稼ぐ組織だから補助金は要らないのか」とか、「適当な人材がいない」「マーケテイングは難しすぎる」「行政との役割分担はどうするか」など、さまざまだ。

 残念ながら、このような真面目だが当事者意識のない悩みを寄せるのはほとんどが行政職員だ。これらの地域は首長に指示されたなどの理由で行政主導により進められている。まさに「DMOありき」の組織づくりばかりが先行している。そのような地域に対して、筆者は「これまで行政や観光協会主体に取り組んできた観光を、民間も入れて皆で総括してください」とまず答える。DMOの議論にあたって、これまでの活動や成果を皆で評価・反省することが先決だからだ。

 また、その時に過去の関係者や組織をくれぐれも「ゾンビ」などと攻撃しないように言う。行政だけではなく、さまざまな関係者、住民が一緒になって現実を総括し、課題を見いだし、解決の方策を議論しないと観光地域づくりは進まないからだ。

 そういう方の参考にするために、筆者が顧問をしている「日本版DMO推進研究会」では、民間リーダーの苦労話を聴いている。これまでの観光の総括を踏まえて課題を見いだし、行政の協力のもと解決策を積み上げている方たちだ。

 まず、八ヶ岳観光圏を9年間リードしてきた小林昭治代表の話を聴いた。7月には現地で合意形成の手法を勉強した。次に、一般社団法人田辺市熊野ツーリズムビューローの多田稔子会長から11年間の取り組みを聴いた。

 2人の取り組みを聴いていると、そもそもDMOという組織を念頭に置いてなかった点では共通だ。当時、DMOの概念がなかったから当然だが、それなのに今やDMOのモデルとしての成果を挙げている点を学ばなければいけない。

 多田さんは合併でごたごたした現場や世界遺産に殺到する団体客を目の当たりにして、「このチャンスをものにして地域を健全にするには、持続可能な質の高い観光地域づくりに取り組まなければ」と考え、今の組織を立ち上げたという。

 彼女は、「11年間現場で壁にぶつかりながら、行政や住民を巻き込んで課題を一つ一つ解決してきたらこんなようになった」と振り返る。行政の理解を得て民間主導で活動を積み重ねたら結果的にDMOを創り上げたということだ。

 このような取り組みを聴くにつけ、観光地域づくりの実態を総括しながら民間が中心になって課題解決に着実に取り組むことが、DMO形成・確立の近道だと分かる。行政主導による性急な「DMOありき」では、遠からず失速すると、筆者は危惧する。

(大正大学地域構想研究所教授)

 
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