【体験型観光が日本を変える32】若者が思う地域の未来 藤澤安良


 北海道の道東エリアは、新緑の木々の間から風薫るさわやかな季節を迎えている、航空機からの眼下には緑のじゅうたんを敷き詰めたような風景が展開し、青く輝く知床連山に北方領土国後島の泊山が望め、観光のベストシーズンである。約30年前なら、曜日にかかわらず多くの観光バスが行き来していた。しかし今、観光ルートに観光バスの姿が少なく残念でさびしい限りである。

 6月18日、根室中標津空港からの航空機(ロシアの航空機をチャーター)による北方領土墓参が、日帰りで国後から択捉へと70人規模で実施される。今までは、ビザなし訪問として船舶での実施であったが、戦後72年目を迎え初めて航空機利用となった。北方領土返還に向けての歴史的な日となってほしい。

 経済交流はすでに日露両国での共通認識であることから、航空機利用に加え、国後島までわずかに24キロしかない標津町からも高速船などの船舶利用も可能性が大きい。戦後72年間、元島民と一部の関係者しか訪問したことがない島である。日本で最高の観光のデスティネーションとして注目されることは間違いない。それは道東観光の起爆剤となり、活力の再生の契機となるはずである。経済交流としての観光の道が開けることを切に望みたい。

 その標津町に20代から30代までの漁師を中心とする若者のガイド人材養成講座で伺った。外国人が寿司や刺し身を求めて日本を訪れ、世界中で魚食振興が進む中にあって、日本人の食の欧米化が進み、魚を食べる量は激減している。地球温暖化や近隣諸国による乱獲なのか、その原因はともかく漁獲量と漁価の低迷は、後継者問題など日本中の漁村の課題である。

 将来への不安が拭い去れない現状に危機感を持った若者たちが、漁業を体験プログラムに活用したり、本業の合間に他のプログラムのガイドやインストラクターとして活躍したりできないか。また、唯一北海道遺産のサケの町として登録されている標津町は、サケやイクラの品質は当然群を抜いているが、そのような豊かな漁場だけに多種多様の魚介類が獲れる。それらを正当な付加価値をつけて販売できないかなど、至極真っ当な思いである。

 それらの課題の実現に向けた研修会でもあった。どこかで聞いた、森は海の恋人であるというフレーズ。生物を育む豊かな海は、自然豊かな山から流れる川によって養分がもたらされている。実践研修では、ヒグマやエゾシカの足あとが見られるポー川でのカヌー体験を実施した。水に関係する職業でありながら若手漁師のほとんどが初体験であり、みんな一様に「楽しかった」を連発する。自らが主人公になり、パドルで操船し、ガイドと仲間でワイワイ、年齢も、性別もなく、理屈はいらない、みんな楽しいのだ。その楽しさを自らが体験し、多くの体験者に味わってほしいと思う気持ちが原点となる。高齢化が進む地方で、若者の地域の未来を思う気持ちが頼もしい。その思いが実を結ぶことを願っている。

 
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